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療育の事例③ビジョントレーニング(6歳A君の事例)

この記事は児童指導員の方に書いていただきました。

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はじめに

 私は療育施設で児童指導員として個別や集団での療育を行っています。

 発達障害を調べる中でよく出てくる「目と手の協応」という言葉をご存知でしょうか。目で情報を見て、その情報に合わせて手を動かす、ということです。

 例えば、ドッジボールなどで目標となる相手にボールをぶつけられるのは、相手の姿やその距離についての情報を目でとらえ、その情報に合わせて身体を動かすことができるからです。

 またノートに文字や単語を書けるのもノートのマスや枠線、ノートの大きさなどの視覚情報を受け取り、その情報に合わせて文字の大きさやバランスを調整ができるためです。

 しかし発達障害を持つお子さんはこの「目と手の協応」がうまくいかず、生活の動作や運動面、学習面に難しさを抱えることがあります。例えばドッジボールでは誰もいない方向にボールを投げてしまったり、ノートも文字の大きさや配置がバラバラで読めなかったり…。

 本人は一生懸命なのに、周りからはふざけている、怠けていると捉えられてしまうこともあります。その「目と手の協応」の力を高めるための1つの方法がビジョントレーニングと呼ばれるものです

 今回は事例を通して、療育ではどのようにビジョントレーニングを行っているかをお話していきます。なお、ご紹介する事例は個人が特定されないよう複数のお子さんの療育を合わせた架空の事例です。

ひらがなの【す】や【む】が書けない6歳のA君の事例

 6歳のA君は年長さんになってからひらがなの練習を始めました。ひらがなの読み練習はどんどん進み、本人も意欲的に書き取り練習に進みました。

 しかし【い】や【し】などのシンプルなひらがなは書けるのですが【す】や【む】などは書くことが出来ず、左右が反転した鏡文字になったり、【す】は【ナ】を書いた後に【〇】をつけて【す】らしい形にしたりするような様子が見られました。

 私は「もしかしたらA君は見え方自体に難しさがあるのかもしれない」と考え、目と手の協応動作について遊びを通して確認していきました。

 まずはキャッチボールです。A君はまっすぐ自分に向かってくるボールはキャッチできるのですが、一度高く上げたボールが落ちてくるのをタイミングをはかってキャッチすることができませんでした。また私のいる方向に投げることも難しく、ボールは全然違うところへ飛んでいきました。

 次にトランポリンです。A君はトランポリンを飛ぶことはできるのですが、着地点がいつもばらばらで、気を抜くとトランポリンから足を踏み外し落ちてしまうこともありました。

 このように目と身体を上手に協応させることが難しいことが分かったのでビジョントレーニングを行うことにしました。

 まずキャッチボールはゆっくりふわふわ動く風船遊びで練習を始めました。基本的にはゆったりと動くので簡単にキャッチできるのですが、ときどき空調の風などで突然勢いづくことなどがあり、A君は大声で笑いながら練習に取り組んでいました。

 またトランポリンでは私がA君の真上にタンバリンを掲げ1回1回のジャンプでそのタンバリンにタッチして音が鳴るように跳ぶ練習をしました。制限時間内に何回鳴らせるかのタイムトライアルにするとA君は張り切って取り組んでくれました。

 机上でできるものとしてはビー玉キャッチを学習前に行いました。机の端からビー玉を緩急つけて色々な方向に転がし、A君にコップでキャッチしてもらう遊びです。ときどき意地悪ですごく速くすると面白がって何度も挑戦していました。

 学習もひらがなの練習より先に線つなぎや点描写、マス目塗りなど、楽しみつつ学習できるプリントを使ったり、【す】や【む】を毛糸で作ってみることでその線の動きを確認したりとA君が自信をもって取り組めるように設定しました。

 就学前にはすべてのひらがなを書けるようになりました。また何もない空間にバランスを整えて書くことは難しいので枠やマスなどの視覚的な補助は必要ですが、A君のペースで成長しています。

ビジョントレーニングの意味

 文字が書けない、運動が出来ない、というのはお子さんの努力不足ではありません。しかし、その事実はあまり広まっておらず、いまでも大人に努力不足を責められて一層頑張る気持ちをなくし、二次障害につながるお子さんもいます。

 適切な理解があり、きちんとトレーニングを受けていれば改善できることなのに、とても残念に思います。この記事が情報を求めている方のもとに届けばうれしいです。

[参考記事]
「療育の事例②感覚統合へのアプローチ」

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