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発達障害者で障害者雇用を考えているあなたに現実を教えます

この記事は30代の女性に、「発達障害者の障害者雇用の現実」について書いていただきました。

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 ある日、私は同じクリニックに通うA子ちゃんと近所のドトールでお茶をしてました。A子ちゃんは統合失調症で、私のデイケア仲間です。
 障害者手帳の申請が通った私は、発達障害者ですが、障害者枠を利用した就職活動に向けて踏み出そうとしていました。
「障害者雇用?そんなのがあるんだ~」
A子ちゃんは制度を知らないようでした。
「優しい社長さんが障害者の人に仕事をさせてくれるんだ~」
「いや、違うよ、A子ちゃん」

 簡単に説明しておくと、障害者雇用制度は国によって義務付けられた制度です。一定以上の規模・条件を満たした会社は障害者を一定の人数雇用しなければならないと法律で決められています。つまり、望むと望まざるとに関わらず、身体・知的・精神のいずれかの手帳を持つ従業員を雇わなければならないということです。A子ちゃんの言うように「かわいそうだから雇ってあげる」スピリッツではないということです。

 このA子ちゃんのリアクションは少し極端な例なのですが、似たことを考えている当事者の方は多いように思えます。「障害者雇用制度を使えば、全てがうまくいく」と。そして、そのような方はほぼ100%「コケて」しまいます。特に成人になってから診断を受けた発達障害の方にこの傾向は強いようです。仕事が長続きしないという悩みは発達障害のせいだと分かった→障害者雇用を利用しよう→現実は厳しいと。今までの現実がハードであった分、期待や理想も高くなってしまうのでしょう。

 また、多くの発達障害の専門家がこのような主張をしています。「発達障害は脳の障害なので治りません。周囲が理解することが大切です。周囲の理解や配慮があれば能力を発揮できます」と。学校など教育機関ではこの主張が受け入れられ、障害特性への配慮をしてもらえるのですが、企業は教育機関とは違う論理で動いています。障害者雇用であってもそれほどの配慮をしてもらえないことの方が多いのです。まずは、そのようなものだと覚悟することが大切です。

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私の体験をお話ししましょう

 まず、ハローワークの障害者コーナーで良い求人を見つけても、窓口では3回に一度は断られます。「精神の手帳の方はお断りです」。障害者雇用は優しさではなく、法の強制によるもの。企業が欲しいのは「面倒を起こさなさそうな人材」。精神障害者に対する差別や偏見はまだまだ強いです。精神障害福祉手帳を持っている人=(いわゆる)キチガイ、というスティグマも根強い。てんかんや認知症など、一般的に精神疾患のイメージがない症状の人も精神障害福祉手帳の対象である、ということを知る人は少ないです。

 もちろんきちんと勉強している企業も今は多いのですが、それほど人権意識の強くない企業が欲しがるのは「軽い身体障害の人」。工場など軽作業系の仕事であるならば知的障害者の求人も多いです。障害者求人の大半はこの二種の障害者を雇うことを前提に考えているといってよいでしょう。

 企業のメンタルヘルス対策が声高に叫ばれる中、精神の手帳に抵抗を示さない企業ももちろんあります。そういう会社の面接に呼ばれるとどうなるか。

「障害について聞きたいんだけど・・つらい思い出なら話さなくていいからね」
私の頭の中「いえ、発達障害って先天性のもので、もちろん辛いと思う人もいるけど、平気な人もいる。周りの環境によります」

「へえ、なら、養護学校を出ているんだ?」
私の頭の中「普通の学校で大学も卒業しています。履歴書、お手元にありますよね?」

「調子が悪くなるとどうなるの?」
私の頭の中「ですから、発達障害って精神の疾患じゃないんですよ。アスぺの場合はコミュニケーションの問題とか、ADHDの場合は忘れっぽいとか….」

「うちはみんな、いい奴ばっかりだから大丈夫だよ!」
って感じです(笑)

 一週間前に履歴書と職務経歴書と障害の説明をお送りしたのですが、目を通してすらないし、知らない単語を調べることすらしていない。とにかく「普通に見える人」「手のかからなさそうな人」を必要なだけ雇い入れよう。私は空気を読むのが下手ですが。その魂胆は一瞬で分かりましたよ。もちろん、全ての会社がそうだとは言いませんが。

 このように当事者と企業の間には強い温度差があるのです。そんなわけで、「障害者雇用を利用すれば」という考えで障害者雇用を考えておられる方には、この「温度差」の存在は理解しておいた方がいいよ、とお伝えしたいのです。

 もし、企業にご縁があったにせよ、その方たちは発達障害については余り興味がないです。知識もないです。そんな中でどこかで自分の障害を説明し、苦手分野をフォローしてもらう必要があります。

 私はこんな紆余曲折を乗り越えて、現在は企業の障害者枠で働いています。当事者の仲間からはうらやましがられますが、「障害者雇用制度を利用して」「理解のある雇用主や同僚に恵まれたから」うまくいった、という単純なものではないと思っています。日常で「わかってもらえないな~」と思うことはしょっちゅうですよ。私も他人様のことは理解できていないでしょうから、お互い様ではあるのですが。まあ、それでもクビにはなっておりません。

 今から頑張ろうと思っている発達障害者の方へ。企業との「温度差」はあるものと思って下さいね。ご健闘をお祈りしております。

[参考記事]
「ADHDの私がハローワークで受けた恩恵」

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