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発達障害を事由に障害年金を申請―受給開始に繋げるための工夫

この記事は前田穂花さんに書いていただきました。

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条件さえ満たせば発達障害を事由の障害年金は受給可能

 発達障害と身体障害、そして軽度知的障害を併せ持つプロライター・前田穂花です。

 今回はズバリ!結論から申し上げます。

「発達障害を事由に障害年金の受給は可能である。また、障害者手帳の有無に関わらず受給条件さえ満たしていれば年金の申請はできる」

 私は実際に発達障害を事由に1級の障害厚生年金(現実には障害基礎年金と同じ金額で算出・受給中、詳細は後述)を受給中です。

 発達障害者を含む精神障害者のうち、申請すれば受給の可能性が多少は見込まれると思われるケースにも関わらず、制度の複雑さや手続きの煩雑さも原因なのか、精神の障害を理由に障害年金を受給している方は全体の一割にも満たないだろうといわれています。

 しかし、受給条件さえきちんと満たしており、且つ申請時に必要な書類がきちんと揃っていれば、手帳の有無に関係なく障害年金の受給は可能です。

 年金受給に必要な条件や実際の手続きについては、お近くの年金事務所に相談されれば懇切丁寧に説明していただけますし、私の解説よりももっとわかりやすいテキストがネット上にもいっぱいアップされていますので、ここでは基本的な知識にだけ触れることとします。むしろ私が年金を申請、決定受給に至るまでに工夫した点にウエイトを置いてお話しできればと思います。

まずは基本。障害年金受給に必要な要件とは

 発達障害や精神障害だけに関わらず、障害年金を受給するために必要な最低限の要件は以下の通りです。

① 障害の状態になった原因の疾病について、最初に医師の診断を受けた日(初診日)から1年6ヶ月以上が経過していること(若しくは初診日が満二十歳の誕生日以前にあること)

② 満二十歳を過ぎてからの疾病や事故が原因で障害の状態になった場合、その時点で各種年金制度に加入し、年金保険料をきちんと納めていること(すでに免除申請が受理されていれば実際に保険料を納めていなくてもOK)

③ 実際の障害の程度や状態が「国民年金法施行令による障害等級表」に相当していること(国民年金法が定める「障害基礎年金」については1級若しくは2級だけしかありませんが、厚生年金についてはさらに軽度の障害を保障する「3級」や、年金受給に相当しないまでも障害による日常生活への支障が認められる場合に支給される「障害一時金」などの制度もあります)

精神科医やPSWは障害年金に対する知識が不十分な場合も

 かつては自身で年金の手続きを行っても、問題なく受給できることが殆んどでした。ところがここ数年は、年金財政の逼迫も影響してか、自己流の安易な手法では申請しても却下、実際の受給に結びつかないケースもかなり増えてきています。

 加えて、精神科病院のワーカーさん(PSW)に相談して事を進める場合、精神科領域においてはまだ発達障害が新しい概念であり、そのために統合失調症など、既存の精神疾患では年金受給の確固たるノウハウをお持ちのワーカーさんであっても、未だレアケースでしかない発達障害を事由にした年金申請は苦手…である方が残念ながら多いのも事実です。

 なかには「どうせ申請しても無駄だから」と、最初から精神科医との連携を密にされない精神科ソーシャルワーカー(PSW)もいます。

 これまで精神の障害を理由に年金を申請する場合において、圧倒的に多い疾患名は「統合失調症」でした。統合失調症の特徴として、発症時期が若い(年金受給に相当するような病状の場合、殆んどは十代で発病する)ことが挙げられます。従って、一度も就労したこともないまま「思春期発病(現場で二十歳前の発病、またはそれを理由にする年金受給のことを指す語)」となるケースが大半です。

 そのような背景もあってか、年配の精神科医やPSWは「精神障害では障害厚生年金を受給することは不可能」だと思い込んでいらっしゃる方も少なくありません。

確実な受給権を得るため年金のプロに依頼するのも一案

 実際の問題としても「障害基礎年金」のみを申請するほうが、障害厚生年金を併給申請するよりもずっと簡単で決定に要する時間も短いため、精神科病院では「(実に安易に)お小遣い程度のお金をもらえばあとは生活保護でも助けてもらえるよ」と流されてしまいがちです。私自身、数か所の病院でそうあしらわれてしまいました。

 ですが、何といってもお金にまつわる問題であり、そこは手厳しく進めるべきです。また、発達障害で障害年金を申請しようとお考えの方は、例えば一般企業に就職後、周囲とうまくかみ合わずに発達障害の二次障害を発症し、それでご自身の本当の障害に気付かれたという人も多いだろうと思われます。

 そんな方の場合、当然厚生年金をかけた履歴もお持ちのはずで、手続きに時間と手間がかかるから基礎年金だけでいいよね…という問題にはとてもなり得ないでしょう。私自身はもともと役所勤めの経験があって、かなりその辺りの事が詳しかったので、病院からの安易な意見も無視して自分で手続きを進め、受給決定に繋がりました。

 しかし、普通の生活の場面において、そのような面倒臭い手続きの裏の部分まで、コツを知り得ている方は少ないかと思われるので、最初から良心的な社労士に相談、依頼されるほうが確実かと思います。

 個人的にはインターネットで大々的に宣伝を打っているような先生は、ちょっと怪しんだほうがいいと感じています(着手金ゼロ、成功報酬で支払いと銘打っていても、あとでとんでもない請求が来たり、ひどい場合だと難し過ぎるケースだと、途中で依頼を投げ出した社労士も見聞きしたことがあります)。

 法テラスで紹介される弁護士や司法書士とは違い、病院や関係省庁との面倒なやり取りを、さして儲けにもならない報酬で引き受けてくれる専門家を探すのは本当に大変ですが、あなたの一生を保障する障害年金の受給権がかかっている以上、ここは根気強く口コミや他人の伝手を利用していい社労士の先生を探すしかないでしょう。

障害年金のヒミツとコツを教えます

 さて、あなたが無事いい専門家と巡り合うことが叶い、実際に社労士を受任、年金請求の依頼をしたとしても、現実には障害年金診断書の作成を医師(この場合たいていは精神科医となるでしょう)にお願いするなど、ご自身でも動かなければいけない部分はいっぱいあります。その際、なかなか他の人は教えてくれないようなテクニックを、ここでこっそり「先輩」の私が伝授したいと思います。

1. 発達障害という病名では正直「厳しい」。それ以外の診断名を記載願う

 私自身は初診の際には「精神分裂病(当時)」という診断名がついていたので、最初の年金申請の際にはそのまま「統合失調症」として申請、決定となりました。しかし、精神の障害に限らず、毎年あるいは数年に一度は「現況届」として最新の障害の状態について診断書の提出を求められることが決まっています。

 四十歳の時に「統合失調症」という病名が完全に否定された現在、私は診断書について医師に以下のように記述して頂いています。

「現在は統合失調症という病名は完全に否定されており、向精神薬の投薬も受けていない。しかし、発達障害が原因で長年精神科病院に入退院を繰り返さざるを得なかったことは本人の日常生活に未だ大きな影響を残し、周囲の配慮や支援が皆無な生活を強いられた場合には再び陽性反応を呈している統合失調症患者様の興奮状態に陥って、直ちに日常生活が送れなくなる虞が高い」。

*余談ですが、この診断書の「作文」が巧い医師とそうでない医師もあからさまに存在し、その結果も自ずと現れます。いわゆる「名医」が診断書作成が得意かといえばそうではなく、ゲンキンなお話ですが、診断書についてはやはり実際に年金受給に繋がった人の体験談などを参考に、得意とされる先生を探したほうが何かといいことは説明するに及ばないでしょう。

2. 診断書にはできることより「できないこと」をメインに記載してもらう

 やはり実際の病状よりも深刻そうに診断書を作成してもらったほうが、年金を受給する上においては有利です。ご本人やご家族にとってはつらいものもありますが、それでも方法の一環としてそこは開き直り、日常生活において苦手なこと、出来ていないことを強調して医師に記載してもらうようにしましょう。

 意外とこれが一番当事者にはつらい部分だと聞きますが、別にあなたの人格を否定するための診断書ではなく、自身の生活保障のための年金をゲットするための手段です。そこは履き違えないように理解し、しっかり目的を果たしましょう。

 うつ状態などの二次障害の表出が原因で精神科に入院中の時点で診断書を作成してもらうとより効果的です。

3.診断書は「ひとり暮らししている状態」を想定して作成依頼する

 また、診断書というのはご家族等と同居している状態ではなく、本人が「アパートなどでひとり暮らししている状態」を想定して作成すると法で定められてはいるものの、実は医師でもその規定をご存じない先生が少なくはありません。

 障害年金の診断書については本人が開封しても差し障りないとなっているので、必ず自身の目で確認し、納得がいかない部分については医師と徹底的に話し合いましょう。そういう時にこそ社労士に間に入ってもらい、医師との関係を調整願うのも一案です。

4.加給を狙って治療中の他の病気についても診断書を提出する

 発達障害で悩んでいる方の中には、全身疼痛をはじめとする様々な身体的不調で治療中の人も多いと思います。それらについても診断書を取って添付し提出しましょう。

 メインは「精神の障害用」と銘打った診断書の様式になりますが、医師に頼んで備考欄に(できれば)「以下の身体症状で他科受診中」として、身体の病気の診断名や症状を羅列してもらい「詳細は別添の診断書等を参照のこと」と一言書き添えて頂ければベストです。

 お願いするのが難しいとしても「精神障害のほか身体症状も認められる」だけはきちんと書いてもらうようにしましょう。そうすることで添付するほかの身体疾患についての診断書の信憑性がグッと上がります。

 大体において医者というものはプライドが高いのか、そのようなちょっとしたことでも渋ることが多い気もします。しかし、年金の受給、そしてその額はあなたの今後を大きく左右するものである以上、徹底的に食い下がりましょう。

 逆にいえば、些細な相談にも乗ってくれないような医者は、今後あなたといい治療関係を築けないと思ってこちらからグッバイしてもいいくらいだと個人的には感じています。

 それでも、やはりただでもメンタル的にしんどい時に医者とまでトラブって楽しい人は皆無でしょう。だからこそ、そういう場合にもやっぱり社労士の出番だと思います。

 ご家族が熱心に動ける場合には積極的に関わっていただきましょう。呼び方だけ「患者様」と改められても、医者にぞんざいに扱われていては、あなたの治療において良い結果は出せないかと思います。モンスターペーシェントになるのは論外ですが、全く見舞いにも来ない家族よりも、本人の回復に心を砕いている協力的な家族には、主治医はじめ医療スタッフも一目置いてくれるものです。

 ご参考までに。最初の年金申請時に「2級」で決定が出た私自身は、のちに身体の疾患で「障害の状態にある旨」の加給申請をしたところ、1級に見直され、受給額は2級の頃の1.25倍に増額となりました。やはりバカにはできないものです。

5.精神科での初診日があるのがベスト。他科受診でも認められるケースも

 現在の日本では発達障害について精神科で治療する疾患だと考えられているので、発達障害を事由とする年金を申請するのであれば、当然最初から精神科の初診日が備わっていることがベストです。

 ただ、心身の不調が生じた場合、はじめから(敷居の高い)精神科を受診する方は余りいらっしゃらないでしょう。

 普通は近くの内科などを受診するも、一向に症状が改善しないことから大学病院などで様々な検査を受け、ドクターショッピングを繰り返して…行き着いた果てが精神科だった、というパターンが大多数だろうと思われます。

 発達障害に限らず、多くの精神科や心療内科の患者さんはそのような経緯を経て、自身のメンタルの不調にやっと気づかれるのです。そういった方の中には初診が内科その他の身体診療科で、精神科に辿り着いた時にはすでに会社勤めも辞め、厚生年金の対象にならない…そう悲観されていることもおありでしょう。

 しかし、そのような時には例えば以下のような感じに診断書の記載を工夫されてみてはいかがでしょう。厚生年金申請の対象だと認められるケースも少なくはありません。

 例として、実際に私がはじめて障害年金を申請した際の診断書に、添付した他科受診の診断書から一部抜粋します。

「在職中の○○年○月頃から胃痛による食欲不振と不眠に悩まされ、同月○日自宅近所の××内科を受診、投薬を受けたが症状の改善が見られなかったため、当時の主治医の紹介のもと精神科受診となった(その時にはすでに体調不良のため勤務先を退職となった)」

「○○年○○月に職場での配属先が代わり、同時期に原因不明の全身疼痛が生じて、パソコンのキーボード操作も困難となり、×月×日○○整形外科で初診。CT等を撮影したが原因がはっきりしないため、同月×日に当該整形外科から△△大学付属病院の整形外科を紹介され、精密検査となった。しかし、整形外科的所見に異常は認められず、整形外科部長・○○医師の紹介により当心療内科受診と相成った」

 私はたまたま精神科の初診日も在職中に持っていて、ラッキーに事が進んだケースですが、最初に受診した医療機関が精神科や心療内科でなくても、このテクニックを活かして障害年金受給に繋がった実例は少なくありません。

*参考。精神の障害を事由にした障害年金の診断書を作成できるのは、精神保健福祉法による「精神保健指定医」をいう資格を有する医師に限られます。「精神保健指定医」の資格を有する医師であれば、精神科を標榜する医療機関に勤務している必然はありません(診断書の様式に紛らわしい注意書きがあるため、勘違いされる方が多いのは残念です)。

 もしもかかりつけの内科などに、非常勤の精神科の先生が在籍されていたら、内科の主治医を通じて、精神科非常勤の先生に診断書だけお願いするという方法も(表向きには推奨できませんが、いろいろ融通が利く部分も多いので)アリです。

6.二十歳以前に発症の障害基礎年金申請にも応用可能な上記のテク

 先に二十歳の誕生日以前に障害の状態(20歳前に初診日がある)となった場合、年金保険料の納付実績がなくとも障害基礎年金の受給対象になることは説明しました。

 しかし、発達障害は精神科で治療するものだと一般的には考えられていながらも、余程のことがない場合は発達障害である事実すらも気づかれずに見逃されて、気がついたら本人はとっくに成人、しかし現状就労もできず、年金納付の記録もなく精神科受診歴もなかった…みたいな親御さんからの悩みもよく耳にします。

 そういう場合においても前項に掲げたテクニックは活かせます。

 例えば「中学生の頃、クラスに馴染めずに不登校になり、同時に食欲不振だったので内科を受診した」…みたいな記録が診療録から確認できれば、その記録の存在を成人後うまくいかない本人の現在の姿と照合を取る方向に繋いでいくのです。

 当然ですが、もっと幼少の頃から発達の歪みを認められて小児科に相談していた場合には、それこそ小児科の診療記録から自閉的傾向を含む発達の遅れや歪みを証明することが可能でしょう。こんな場合、障害年金以上の経済的な、あるいは物理的・人的な支援をも受けられる可能性も考えられます。各自治体の障害福祉課などの窓口に相談されてみてください。

 経済的な裏付けの根幹となり得る障害年金は、その手続きこそ面倒ではありますが、一旦受給権を手に入れられれば、のちの発達障害当事者の人生を様々な側面から豊かにし、親御さんをはじめとするご家族の不安を大きく激減させるものだといえます。

[参考記事]
「精神障害者保健福祉手帳を取得したことでの差別と返納の経緯」

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