この記事は自閉症の息子さんを持つ30代の女性に書いていただきました。
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感覚過敏の中には、触られるだけで痛みを感じるような触覚過敏や、音に対して過剰に反応してしまう聴覚過敏、味に対しての過敏さがある味覚過敏、日常生活の光すらまぶしく感じる視覚過敏など様々な種類があります。どの感覚過敏も私たちが想像できない程の苦痛を伴うもので、ただのワガママや我慢が足りないといったものではないのです。
息子の聴覚過敏
息子も就学する直前まで聴覚過敏があり、私には聞こえない音に必要以上に反応していました。耳に入ってくる音の中から自分に必要な音を選ぶ事が出来ない為に、いくら名前を呼んでも気づかないこともありました。
療育施設で自閉症の子供が感じている世界を疑似体験するという勉強会で、聴覚過敏の体験をしたことがあります。夫婦でペアになり10メートル程離れた所から父親が話し、母親がそれを紙に書くといった内容でした。
これだけ聞くととても簡単に思いますが、体験した夫婦の中で出来た組は一組もありませんでした。その体験方法は20人ほどの人が一斉に伝えたい言葉を大声で叫ぶのです。部屋中に大人の叫び声が響き渡り耳をふさぎたくなるような状況の中、相方の声だけを聴き分け、内容を把握しないといけないのです。
「これが聴覚過敏がある自閉症の子供の世界です。どうして聞いてないの!って怒る事が出来ますか?」と言った先生の言葉が忘れられません。
当時の私は息子の耳ふさぎする姿がいかにも自閉症っぽく感じて、耳ふさぎする事すら止めさせていました。自分の行動を恥ずかしく思うと同時に、息子に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。これは聴覚過敏を疑似体験したからこそ分かったことですので、貴重な経験でした。
聴覚過敏のある息子の保育園での様子
保育園でみんなで歌を歌う時間は、息子は全く参加していませんでした。部屋の隅で一人絵本を読んでいて、その姿を見る度に自閉症だから集団行動が出来ないんだな…と思っていました。そんな時、療育機関の先生方が保育園での息子の様子を見に来てくれることになりました。朝の体操から給食の時間、気になっていた歌の時間の様子も見てくれて、私としてはどうすれば参加させる事が出来るかを聞くつもりでいました。
ところが先生の判断は
「聴覚過敏によってお友達の自由な音程の合わさった歌声が辛いのではないか」
「絶対音感まではいかなくても音に対して繊細なので、音程のずれや不協和音が耐えられない」
「だからそれから逃げるように絵本を読んだり違うことをして気を紛らしている可能性が高い」
「本当なら教室から出たいくらいだと思うが、そこは教室内にいるというルールを守っている」
という結果報告を受けました。
赤ちゃんの泣き声や男の人の声が苦手など分かっていたつもりでいましたが、歌声が合わさった時の声が苦手だなんて考えてもいませんでした。
私には聞こえないような音に対する過敏さや、呼びかけに応じない、歌の時間に参加できないなど、その時困っていたことは8歳になった今ではなくなりました。経験として色んな音を聞いてきた事で、慣れたのだと思います。
それでも問題行動が目立ってきたり、精神的に不安定な時は聴覚過敏も戻ってきていました。行事の前などストレスになるようなことがあった時などに聴覚過敏が戻ってくることが多いので、「聴覚過敏が出てきたからいつもより丁寧に接する必要があるな」と息子の状態を知るバロメーターになっています。
過敏などの特性が全開になる時と穏やかになる時があります。過敏な時は原因を考えたり無理強いさせないように注意してあげる必要がありますし、穏やかな時は精神的に落ち着いているな、どうして落ち着いているのか、何が良い効果を生んでいるのか考えてみると不安定な時にも対応しやすくなります。
それと、ぜひ、聴覚過敏の疑似体験をしてみてください。きっと、親の子供への対応が変わります。
[参考記事]
「自閉症の息子は床屋が大嫌いです。どうしたらいいですか」