この記事は30代の女性に書いていただきました。
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発達障害は、その言動から「困った子」や「しつけのなっていない子」とみられることが多くあります。幼少期から思春期ごろまでは、人格的にも未熟な発達途上ですからなおのことです。しかし、発達障害は脳の働き方が特殊なだけにすぎません。ですから、親のしつけが悪いわけではないのです。
しかし、発達障害に気づいていない親や世間の認識はそうではありませんよね。世間は親に、親は子に、できない原因を求めてしまいます。
世間から責められる親
発達障害には「しつけが足りない」と思わせる症状が多くありますよね。
・じっとしていられない
・突然走り出す
・集中できない
・カッとなって暴力をふるう
・人とうまくコミュニケーションできない
・忘れ物や無くし物が多い
・片付けられない
・遅刻が多い
・識字障害などからくる成績不振
などなど
これらはどれも発達障害の典型的な症状です。脳のある領域の機能が十分でないことから、このような症状が起きるのが発達障害です。発達障害について正しい理解のある人ならば、子供本人の性格や親のしつけとは無関係であることが分かります。
しかし残念なことですが、世間一般の発達障害に対する知識はそれほど深くないのです。すると、発達障害の子供特有の症状は「親のしつけがなっていない」という点に還元されてしまいます。祖父母や先生、ご近所さん、ほかの保護者や、通りすがりの人達。こんな「世間」が明に暗に親を責めるのです。
特に日本では育児はまだまだ母親の仕事という認識が強いですから、時には父親ですら「母親の育児が悪い」というスタンスなのが悲しい現実です。
必要なのは特別な訓練
こうして、知らぬ間に「世間」はどんどん母親を追い詰めていきます。発達障害の子供を抱える親は、決してしつけをしていないのではありません。しかし、成果が身を結ぶには専門的な訓練(療育)が必要なことは、世間にも、時には親自身にもあまり知られていません。
特に親自身が発達障害についての理解が十分でない場合、「よりいっそう厳しくしつける」という行動をとらざるを得ません。子供に対して具体的な解決策を提示するのではなく、力で言動を押さえつけるという事でしか、「世間」からの責めを逃れる術がないからです。
叱られてばかりの子供はどうなる?
さて、このように親から叱られてばかりの子供はどうなるのでしょう?人間が幸福を感じるためには自己肯定感を欠かすことができません。自己肯定感とは、「自分はただ自分であるだけでも存在していてもいいのだ」と自分という存在を肯定的にとらえることのできる感情を言います。自己肯定感とは、生きていくことや世界を前向きにとらえるための希望の光なのです。これは主に幼児期に形成されていきます。
この時期に叱られてばかりで自分という存在を否定的に扱われてしまうと、自己肯定感を育むことができなくなってしまいます。長い目で見れば自殺という最悪な事態にまで発展してしまう可能性があることなので、特に発達障害を抱えている子の場合、気を付けて接しなければいけません。
最終的な犠牲者はいつも子供本人
自己肯定感が十分ではない人は、大人になっても人との信頼関係を構築できなかったり、愛情が理解できなかったり、時には二次障害により精神疾患を発症することすらあります。発達障害に対して無知な世間のしわ寄せは、罪のない子供に濃縮されてぶつけられてしまうのです。
子供の自己肯定感を育てるためのキーパーソンは、やはり母親であると言えるでしょう。「母親の愛は無償の愛である」とはよく耳にする言葉です。子供に厳しく当たらざるを得ない母親は、わが子が世間の構成員の一人として参加できるようになることを祈っています。母親も、世間からの無慈悲な要求に応えるために必死なのです。
そして子供は母親の要求に応えるためにもっと必死になります。子供自身はもちろん以前から一生懸命やっていたのです。ただ、発達障害であるがために結果が伴わなかっただけにすぎません。特に年齢が低いほど、母親とは子供にとっての世界そのものです。
母親が世間に受け入れられるために必死なのと同様に、子供も母親に受け入れてもらうために頑張ります。しかし、頑張りたくてもできないのです。正しいやり方が分からないのですから。発達障害の子供たちのために療育が行われているのはそのためなのです。
もし、発達障害(または疑い)のお子さんをお持ちのお母様・お父様がお読みでしたら、どうかお子さんを褒めてあげてください。抱きしめてあげてください。そして一緒に具体的な解決策のための訓練を模索してあげてください。これらは皆、自分という存在に対して不安を感じているお子さんの自己肯定感を育ててくれる大きな栄養となります。
お子さんにとって一番必要なことは、叱ることではありません。親だからできること、それは「愛してる」と「一緒に頑張ろう」を伝えることなのです。これは、お子さんが「世間」に対して信頼感を持てるようになるためには欠かすことができません。そしてそれは大好きなママ・パパにしかできないとても重要な役目です。どうか、お子さんを世間の犠牲者にしないで上げてください。