この記事は自閉症のお子さんを育てている30代の女性に書いていただきました。
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2歳半の頃、自閉症の息子には酷い癇癪、自傷行為、言葉の遅れ、感覚過敏がありました。その後転居に伴い療育施設を探し2歳11カ月を迎える頃、区立の療育施設と民間で行っているデイサービスに通うことになりました。
区立の療育施設は母子通園施設の為母子一緒に通い、同じ年齢のお子さんと集団で課題に取り組みます。デイサービスは母子分離施設の為息子1人で通い、自由に遊んで帰ってきます。課題(訓練)のある療育施設に反し、デイサービスは特に課題の設定等はされておらず療育施設としては両極端なものでした。
今回は私が経験した療育施設とデイサービスの効果の違いについて書いていきます。あくまで、「私の自閉症の息子の場合」ですので、これがすべてのお子さんに当てはまる訳ではありまん。
デイサービス(母子分離状態)での課題
もともと不安の強い息子です。母子分離の機会などこれまでにほとんどありませんでした。この頃の発語は「ママ」「耳」等同じ音が続く言葉を言えるのみ。「トイレに行きたい」「抱っこしてほしい」等は全て自分で作り出したベビーサインで行っていました。始めての分離に不安だったのは私だけではなかったようです。
初日、デイサービスの職員に抱えられ大号泣する息子。9時から12時までの利用でしたがその間ずっと泣きっぱなし。職員に対して「立って抱っこをするように」と求めたそうです。職員が座った状態で抱っこするともっと激しく泣いたのだとか。これは「座って抱っこすると他の子供が近くに来て怖いのでは?」とデイサービスより指摘を受けました。実際息子は私と公園に行っても他の子供が遊んでいると公園内には入れません。もし公園に子供が自分1人でもいたり、後から他の子供が来るとすぐに帰りたがる子供でした。
母子の分離不安だけでなく他の子供に対しても恐怖心が大きすぎると言う課題が見えてきました。又、若い女性職員にも大声で泣いて拒否反応を示します。年配の男性の方が体力があり3時間の抱っこにも耐えてくれたためでしょうか。とにかく最初は「人間に慣れる、母と離れても泣かずに過ごす、その後子供との関わりも視野に入れていこう」という目標が設定されました。
ちなみにこの職員に対し立って抱っこを求め、室内を全く歩く事が出来ない状況がデイサービスの利用開始後4ヶ月間続きました。彼の不安は相当なものでした。
療育施設(母子通園)での課題
利用当初から目標を出させたデイサービスとは打って変わって、全く目標を見出す事が出来なかったのが母子通園型の療育施設です。もともと酷い癇癪や自傷行為を持っていますが、それが療育施設では全く表出しません。母が近くにいるので、困った事は全て母に対応させます。デイサービスの時は一人ですので、癇癪が起こりましたが、ここでは母子通園ですので、親に頼ってしまうのです。
デイサービスの利用により言葉も増えてきた息子は「指示が通り、拙いながらもお話が出来る。多動も離席もない。トイレも行けてご飯も1人で食べられる。お母さん、この子に何の不満があるのですか?」と毎回のように療育施設の担任に言われました。
しかし実際は違うのです。指示を受けても「嫌だ」と拒否する術を知らない。興味のない課題でも拒否する事が出来ないので我慢して取り組みます。その結果ストレスにより課題をこなしながら髪の毛を抜き、身体をかきむしっています。多動や離席がないのは何かに興味を持っても不安が強く、そこまでたどり着く事が出来ないから。外の世界で全ての欲求を抑え続けた息子は自宅に帰って強いストレスを発散させようと、また酷い癇癪と自傷行為を繰り返します。もちろん自由遊びの時間中、他の子供がいるので遊べません。
母子通園で一番困っていたのは私が他の子供や保護者と話すと怒鳴る事でした。不安の強い息子です。自閉症特有の認知の歪み(思い込みの激しさ)もあるのでしょう。私が他の人と話す、関心を寄せるという事は「自分に一切の興味がなくなる」と思い込んでいました。そのため他の子供が転んだのを見るだけで「見ないで!」と怒鳴ります。それでも「男の子はお母さん大好きだから。そのうち怒鳴らなくなるよ」と療育施設では全く相手にされませんでした。
自宅で癇癪の様子をビデオに録画して見せても「療育施設でこの状態にならないのなら対応は出来ない」としか言ってもらえません。毎週親子で先生以外とコミュニケーションをとることなく課題をこなしていました。息子の発達課題を見つける事よりも、息子の困りごとを分かってもらう事が課題になってしまいました。あまり職員が自閉症について理解をしていないように感じました。
最終的にたどり着いた療育
結局母子通園の療育施設は年度途中で打ち切りとなりました。まだまだ人との関わりなど持てない息子でしたがここでは息子の課題を見つけることも出来ないと判断したためです。
最初は不安の強かったデイサービスですが職員の先生方が根気強く付き合ってくださったおかげで1年たった今では室内を自由に歩き、お友達とコミュニケーションをとれるまでになりました。それでもやはり母子分離に対する不安は強いため、デイサービスは利用しながら、他でも併用できる療育施設を探しました。
次に大きな課題となるのは「小グループの集団の中でリラックスして課題に取り組む事が出来る」「ストレスを感じた時に自傷ではなく、別の方法で発散させる方法を身につける」事です。年度切り替えのタイミングで運動療育のグループからお誘いがかかり、今はそこにも通っています。毎週5人の子供達で先生の指示のもと体操を行います。運動療育では順番や勝ち負けなど体操を通じてコミュニケーションや社会的ルールを学ぶ事が出来ます。運動をする事でストレス発散にもつながればと考えています。
療育施設は魔法の施設ではありません。通うためには狭き門ですが、通い続けるのも又狭き門だと思います。課題の設定をしっかりと行い、それに対して取り組む事が出来なければ全く通う意味のない場所だと実感しました。もちろん、療育施設でも自閉症などの発達障害に対して知識が多い職員がいるところであれば違うかもしれません。ここだけは通ってみないと分からない面があるので、最初から療育施設に行かないという選択することは間違っています。また、同じ自閉症でも細かな性質は違うので、療育施設の方が合うお子さんもいるでしょう。
いずれにせよ、「ダメならそこでの療育を止め他の施設を探し、試す」など試行錯誤をしながら、療育を行うのが一番良いと感じます。
[参考記事]
「発達障害の診断を受けるきっかけは自傷行為とかんしゃく」