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発達障害のための作業療法(感覚統合)の訓練と事例

 

療育アシスタントの仕事をしていた男性の方に書いていただきました。

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 初めまして。療育アシスタントをしている島田といいます。私は発達障害のための療育現場でアシスタントとしてのお仕事をさせていただいています。私の療育アシスタントとしての仕事内容は、主に作業療法(OT)として感覚統合の訓練をするための補助作業です。

 先生の指示の下での機材の準備や利用者様が抵抗なくスムーズにできるようにするためのお手伝い、先生と利用者様の療育実施内容の補助などをします。簡単に分かりやすくまとめると、ボルスタースイング(大きなブランコ)やトランポリンで遊ぶ相手役です。

 作業療法の「感覚統合」は「体の使い方をもっと上手にできるように調整をしていく事」を目的にしています。よく、先生が子供たちの体の発達の凸凹を「原付免許で大型トラックを運転するようなものだ」といいますが、まさに発達障害の子供たちの日常はその通りであり、よく転んだり、狭い所で頭をぶつけてしまったり等と、体をうまく使えずに生活をしているので、それが元で学校に行きたくないと悩んでいる子供は数多くいます。

 普通の定型発達(一般的な正常発達)であれば、大きくなればできるよね!と時間が解決してくれたりしますが、発達障害者の場合、大きく成長した後だと修正が効きづらくなり、本人の苦手意識につながります。発達障害(主に運動系)の子供視点でみるならば、普通の素人同士のキャッチボールが、プロ野球選手同士のとても速い投げ合いに感じられたり、学校の体育の時間がオリンピックの体操のように複雑でウルトラC級に見えたりします。分かり易く実感するならば、素手でキャッチボールをするときに、鍋つかみのミトンを手につけて、さらに素潜り用の大き目のゴーグル(視界が狭くなるもの)と厚手のコートを二枚羽織ってやってみてください。

 発達障害者はこのようなやりずらいと感じている状態が日常的に続いているので本人の辛さが多少は実感できると思います。健常者は意識しなくても目と手の協調運動、眼球の追視運動、体幹バランス、固有覚の調節など実に複雑な動作を同時に統合させながら、ある一つの運動をしているのですが、発達障害者はこの連携が難しいのです。

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感覚統合の訓練

 健常者の体は意識しなくても運動できるように学習し続けていけるので慣れてきますが、発達障害がある子供たちは運動感覚の記憶保持が難しいので、慣れというものができにくいです。発達障害には、各筋肉の力の入れ具合の調節がうまくできなかったり、どの程度手を伸ばしたり、体をかがめたらよいかなどが苦手な人がいます。手と目の協調運動、それに合わせた体の使い方が上手にできないため、作業療法の感覚統合では基礎的なことからアプローチをしていきます。

 まず基本は日常的に自宅でできるような練習を先生の指導の下でやり、その後はお家での日々の練習になります。これは日常的にすることによって、体の運動機能の改善、運動機能の記憶保持にもつながります。なので、一番大事なのは日々の自宅での練習であり、続けることです。ある一定の成長ができると、次のステージに移行するので、その度に先生に細かな評価、調整、つぎの段階へのステージアップとなります。

 作業療法の感覚統合の簡単な事例として、ボルスタースイング(大きなブランコ)とトランポリンによる平衡感覚と体幹機能の調整により一本橋渡りができるようになったというお子様がいました。他にもタッチング(触覚によるアプローチで、体の部分意識集中)という訓練でボタン式の服の着替えをしやすくしたり、食べこぼしをしないための唇と舌の協調運動の改善をしたりと訓練は多岐にわたります。

 食事の時の口と舌のメカニズムとして、食物が口の中に入るとき、例えば、スプーンの形状に沿って唇をすぼめる、唇で口を閉じる、唇を閉じつつ、咀嚼をしながら、食物を舌で口の中の奥歯に食物を運ぶ、舌で左右に振り分けるなどの複合動作があります。食べこぼしをする時は、咀嚼運動をしつつ唇と舌の協調運動がうまくできないので、いつの間にか唇が空いてしまいこぼれる、舌で噛み砕いた食物を奥に送れないために出てきてしまいます。この状態は、歯医者で唇の麻酔が効いている状態に似ています。食事をする際に、唇を使わないで咀嚼する、舌を使わないで咀嚼してみると分かり易いと思います。訓練内容としては歯ブラシなどを使い感覚機能の改善をします。

発達障害は躾のせいではなく

 発達障害は決して親のせいでもなく、躾で治ったりはしません。今だに発達障害は親の責任だという人々がいますが、それは間違いです。発達障害は目に見えないものなので、外からではよく分かりません。足がない人に走れと言っていることに等しいのです。ですが、足が無くても義足をつけて走ることができます。車いすだってあります。

 私たち訓練者は目に見えない義足や車いすを一緒にお子様と作り上げる、そのお手伝いをしているまでです。常に発達障害の子供たちは私達には見えないフィルターで世界が覆われている事を感じてあげてください。療育に携わる者はその見ている世界を綺麗に、しっかりと感じられるようにし、第一にお子様の笑顔、第二に両親の笑顔を増やす事が最終目標です。

[参考記事]
「発達障害の治療は何をするの?」

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