発達障害は「脳の特性」に関する課題ですが、近年の医学研究では、それが全身の「代謝システム」とも深く関わっていることが分かってきました。統計データによれば、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)を持つ人は、そうでない人と比較して、2型糖尿病を発症するリスクが有意に高いことが示されています。
1. 統計が示す「リスク上昇」の現実
2025年に発表された500万人規模のコホート研究や、過去のメタ解析のエビデンスを総合すると、発達障害を持つ成人の糖尿病リスクには以下の傾向が見られます。
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ASD(自閉スペクトラム症): 定型発達の人と比較して、2型糖尿病の発症リスクは約2.7倍〜5倍高いという報告があります。特に若年成人期での発症が目立つのも特徴です。
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ADHD(注意欠如・多動症): ADHD単独でも糖尿病リスクは約2倍〜3倍に上昇します。これは、衝動性による食行動の乱れだけでなく、生物学的な共通項が示唆されています。
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死亡リスクへの影響: 2025年6月の韓国の研究データによれば、知的発達障害を伴う糖尿病患者は、障害のない糖尿病患者に比べ、全死因死亡リスクが3.4倍高くなるという厳しいエビデンスも示されています。
2. なぜ「なりやすい」のか:3つの主要メカニズム
脳の特性がどのようにして「血糖値」に影響を与えるのか、医学的に裏付けられた3つの理由があります。
① ドーパミンと食行動の関連
ADHDの核心的な特徴である「ドーパミン系の機能不全」は、食行動に直結します。ドーパミンによる報酬系が働きにくいため、脳は手軽に快感を得られる「高糖質・高脂質」な食べ物(ジャンクフードや甘い飲料)を強く求めがちです(セルフメディケーション)。これが慢性的な高血糖を招くエビデンスとなっています。
② 向精神薬による副作用(代謝異常)
発達障害の症状を緩和するために処方される「抗精神病薬」の一部には、副作用として血糖値を上昇させたり、インスリン抵抗性を高めたりするものがあります。
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エビデンス: 非定型抗精神病薬の長期服用は、体重増加や高脂血症のリスクを伴い、それが2型糖尿病の引き金になることが多くの臨床研究で確認されています。
③ 慢性的な「酸化ストレス」と炎症
近年の分子生物学的な研究では、発達障害の脳に見られる「慢性的な微細炎症」が、全身のインスリン抵抗性を悪化させている可能性が指摘されています。脳のインスリン抵抗性は、気分の不安定さや認知機能の低下を招くだけでなく、体全体の糖代謝を狂わせるという「双方向の悪循環」を生み出します。
3. 「見逃されやすい」合併症のリスク
発達障害を持つ人は、自分の体調の変化を言語化したり、異常に気づいたりすることが苦手な場合があります(失体感症的傾向)。
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治療強化の遅延: 2025年11月の研究報告では、発達障害を伴う糖尿病患者の半数以上で「治療の強化」が遅れており、その結果として網膜症や腎症などの深刻な合併症が早期に出現しているというエビデンスが示されました。
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生活管理の困難さ: ADHDの不注意特性や、ASDのこだわりの強さが、毎日の食事管理や服薬、運動習慣の継続を困難にさせ、血糖コントロールを悪化させる要因となります。
4. 2026年:リスクを抑えるための医学的対策
この高いリスクを背景に、現在の診療ガイドラインでは、発達障害者に対する「先回り」の代謝ケアが推奨されています。
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早期スクリーニング: 20代〜30代の早い段階から、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の定期的な測定を行うこと。
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薬剤の慎重な選択: 代謝への影響が少ない薬剤への切り替えや、副作用のモニタリングの徹底。
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構造化された生活支援: 「本人の努力」に頼るのではなく、視覚的な食事管理アプリや、ルーチン化された運動プログラムなど、特性に合った支援体制を構築することが、糖尿病予防において医学的に有効であるとされています。
結論:特性を「糖尿病のリスク因子」として認識する
最新のエビデンスを総合すると、「発達障害は脳だけでなく、全身の代謝疾患(糖尿病)のハイリスク状態である」と捉えるのが、2026年の医学的な常識です。
「ただの特性」と済ませず、若いうちから血糖値に注意を払うこと。そして、本人が管理しやすい環境を整えること。この二点が、発達障害を持つ人々が健康な一生を送るための、最も重要な防衛策となります。

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