この記事は特別支援学校で教員をしていた方に書いていただきました。
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小学部、中学部、高等部を併設する特別支援学校での高等部における生徒への支援についてお話いたします。高等部では卒業後のリアルな日常の生活をイメージした目標を子ども一人一人に設定します。
特別支援学校の高等部は「つなげる」段階
小学部は身の回りの色々なことに少しずつ触れていく段階、中学部は知識や経験を広げる段階であるのに対して、高等部はそれまでに身に付けてきたことを深く定着させて将来につなげる段階であります。
将来につなげる上で、卒業後の活動の場と生活の場を想定する必要があります。活動の場としては、支援員の方の協力を得ながら活動する福祉的就労、障害者枠での一般就労などがあります。生活の場については、継続して家庭で暮らす人もいれば、入浴や食事の支援を受けながら集団生活を送る施設入所をする人、グループホームで一人暮らしに近い生活を送る人もいます。進路先が様々ですので、進路担当の教員からの情報を参考にしながら授業内容を構成します。
例えば、事業所において、利用者同士の親睦を深めるレクリエーションの一環で簡易調理をすることがあります。レクリエーションに楽しんで参加するには、周りの人と協力しながら調理を進める力を持っていなければなりません。そこで、高等部の調理学習では、カレーや鍋など、それぞれの担当する食材を組み合わせて一つの食事が出来上がるような調理実習を行うことが多いです。
また、グループホームの中には自分で食事の支度をしなければいけない所もあります。自炊には自分で正しくバランスの取れた食材を選択する力が求められます。そのような自立度の高い生活が予想される生徒には、三大栄養素それぞれの食品グループから食材を選んで弁当や定食を作る学習支援を行います。
その生徒にとって自立度の高い生活のあり方を検討し、それに近い環境を挑戦の場として提供していくのが高等部での学習です。
将来に必要な力の精選
特別支援学校の高等部段階になると、将来の生活に直接結び付く学習内容を精選します。様々な知識・技能があることに越したことはありませんが、全てを網羅することは現実的でありません。優先度を考える必要があります。
国語の学習では、公共機関の利用申請書類を実際に書き込む練習をすることがあります。日常生活の中で自分の氏名や住所、生年月日を書くことの頻度を考え、プリント学習にとどまらず、実物の書類のどの欄に何の情報を書けば良いのかを理解しておく必要があります。また、単に漢字の練習をするだけでなく、漢字が分からない際に自分で調べる方法を身に付けることも学習の一貫です。辞書の引き方を覚えることも大事ですが、近年ではタブレットやコンピューターなどの便利なツールが普及していますので、これらの活用の仕方を学ぶ学習は避けては通れません。そこで必要なコンピューターの操作、ローマ字入力といったスキルを、実物の操作をしながら自分のものにしていきます。
特別支援学校の高等部は最後の練習の場ですので、今やっておくべきこと、今しかできないことは何かを、生徒の今の姿と理想の姿を元に逆算していきます。
時にはあえて負荷を掛けることも
見ず知らずの異国の地を初めて訪れるのを想像してください。いつも当たり前に行なっている食事や買い物も、言葉や生活の様式が違って躊躇してしまうことが多いと思います。子ども達にとって過ごし慣れた学校や家庭から一歩外に出るのは、その感覚と似ていると思います。自分の力を試さなければなりません。そのため、子どもをわざと普段と異なる環境においてみることがあります。これは、いわゆる「こだわり崩し」と呼ばれているものです。
例えば、スケジュールの変更が苦手な生徒にあえて変更を加えてみることもあります。馴染みのない、学級以外の先生に授業を担当してもらうこともあります。ただし、いずれの場合も急にイレギュラーな事項を加えるのでなく、あらかじめ生徒に変更の予定を伝えた上で行います。
身に付けた力が本物であるためには、慣れた環境でなくても、慣れた相手に対してでなくても、そして時が移り変わっても同じパフォーマンスを保てる普遍の力である必要があるのです。
最後に
特別支援学校は、高等部段階で確立した支援の方法を、必ず卒業後の進路先の担当の方に引き継ぎをします。「この支援をすれば、〇〇ができるようになる」という情報が確かなものにするための3年間が高等部です。そのためにも、あらゆる角度から様々な環境を生徒に経験させることが強調されます。
[参考記事]
「特別支援学校中学部での支援方法と思春期への対応」
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