この記事は児童指導員に書いていただきました。
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1. はじめに
私は療育施設で児童指導員として個別や集団での療育を行っています。発達障害を持つお子さんはソーシャルスキルトレーニング(SST)を通して社会性を身につけていきます。
ソーシャルスキルトレーニングは次の5つ流れで練習していきます、
教示:練習するソーシャルスキルについて、そのスキルを身につけることによってお子様に得られるメリットについてお話します。
モデリング:先生がお手本になってスキルを使った行動を見せて学ぶ。またあえて先生が間違った行動をして、その行動が正しいか間違っているかを考えます。
リハーサル:その学んだスキルを先生やお友達に使って練習します。
フィードバック:適切にスキルを使えていた時は褒め、不適切だった場合は声掛けやイラストなどのヒントを出して適切な行動がとれるように促します。
般化:療育の指導の中で身についたスキルがご家庭や幼稚園・学校などの場面でも使えるようにしていきます。
今回は事例を通して、療育で実際にSSTをどんな風に練習しているのかをお話していきます。なお、ご紹介する事例は個人が特定されないよう複数のお子さんの療育を合わせた架空の事例です。
2. SSTの風景 「貸して」が言えないA君
A君はお友達と遊ぶのが大好きな5歳の男の子。しかし幼稚園の先生も親御様もA君がお友達の物を勝手に取ってしまうことが気になっていました。
そこで療育では「貸して」を言ってから借りる練習、また「貸して」と言われた時に「いいよ」「待って」と返す練習を行うことにしました。
まず事前に準備をします。今回は工作の時間にはさみを1つだけ用意することにしました。
まず教示とモデリングの段階です。私と補助の先生とではさみを取り合います。「私のだよ!」「ちがうよ!私のだよ!」二人の先生の迫真の演技にA君も真剣なまなざしで事のなりゆきを見守っています。
私はA君に「これってマルかな?バツかな?」と聞くとA君は「バツ」と答えてくれました。そこで私は「そうだね!これじゃ工作が出来ないね。じゃあマルの借り方を見せるよ」と声掛けし、補助の先生に「はさみ貸して」と言いました。補助の先生は「いいよ」と言って貸してくれました。
私が「こうやって『貸して』って言って借りると仲良く工作できるね。『貸して』って言われたら『いいよ』って言ってあげようね。だけどまだ使いたい時は『待って』って言ったらいいよ」と伝えるとA君は「わかった」と言ってくれました。
さて、実際に工作が始まりました。A君が「貸して」を言えるように私はずっとはさみを使っていました。A君は「貸して」を言わずにはさみに手を伸ばしました。
そこでリハーサルとフィードバックの段階です。補助の先生がA君に「なんていうんだっけ?」と声をかけると「貸して」と私に伝えることが出来ました。不適切な行動を適切な行動に修正できたので私は「いいよ!上手に『貸して』って言えたね!」とほめる言葉と共にはさみを渡しました。
今度は私の「貸して」にA君が対応する練習です。私はA君に「貸して」と言ってみました。A君は「だめ」と言いました。「だめ」でも意味は伝わるのですが、お友達相手に「だめ」と強い拒絶の言葉で表現するとA君の意図しないトラブルになりかねないのでニュアンスの柔らかい「待って」に表現を変えるように練習します。
補助の先生がA君に「待って、だよ」と声掛けするとA君は「待って」と言うことが出来ました。私は「わかった!上手に伝えてくれてありがとう!」と言い、A君の「待って」を受け入れ、A君自身も気持ちよく遊べることを体験してもらえるようにしました。
この練習を他の先生、親御様、療育での他のお子さん、幼稚園など色々な場面で般化するように取り組み(般化の段階)、A君は補助がなくても「貸して」「いいよ」「待って」を言えるようになりました。
まだA君が「待って」を言った後、相手を待たせたまま貸してくれないこともあるので課題はあるのですが、スモールステップで成長しています。
3. ソーシャルスキルの意味
ソーシャルスキルは本当に根気が要ります。全てを急いで身に着けようとするのは、親御様にもお子さんにも負担がかかります。みんなで無理なく、そして身に着けることで過ごしやすくなることを実感してもらうことが大切だと思っています。
また、社会は変わりゆくものです。社会が必ずしも正しいわけでもありません。今の社会に合わせたスキルを身に着けることだけに執着するのではなく、お子さんの個性も合わせて考える必要があります。
この記事が皆様のお役に立てばうれしいです。
[参考記事]
「療育の事例③ビジョントレーニング(6歳A君の事例)」
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