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療育の事例⑤コミュニケーションの練習。ジェスチャーと絵カード

この記事は児童指導員に書いていただきました。

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 私は療育施設で児童指導員として個別や集団での療育を行っています。今回はコミュニケーションの練習風景について、事例を通してご紹介します。なお、今回紹介する事例は複数のお子さんの療育を合わせた架空の事例になります。

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1. ジェスチャーを使ったコミュニケーション

 4歳の男の子A君はまだ「あー」「ががー」などの発語しかなく、明快に単語を話すことができません。しかし目はよく合い、動作の真似も上手で〈クレヨン取って〉などの指示も理解して行動できています。そのためA君にはマカトン・サインと呼ばれるジェスチャーを用いたコミュニケーションの練習を始めました。

 マカトン・サインとはすごく簡単な手話のようなものです。例えば【ちょうだい】と表現したい時には手のひらを上に向けた状態で両手を重ね合わせて手を自分の方に引きます。お子さんはジェスチャーのみを練習しますが、親御様や先生はジェスチャーを見せながら〈ちょうだい〉の言葉もしっかり伝えます。

 まずはA君に【ちょうだい】を教えます。私がA君の好きなおもちゃを持っているとA君がぱっと手を伸ばします。そこで私は【ちょうだい】のサインを示しながら〈ちょうだい〉と声掛けをしましたが、A君は初めてのことにきょとんとしています。そこで私はA君の手を重ね【ちょうだい】のジェスチャーを実際に体験させながらゆっくり〈ちょうだい〉と声掛けして、〈ちょうだい、できたね!どうぞ〉とおもちゃを渡しました。

 しばらく遊んでから次のおもちゃを提示します。A君はまた手が伸びますが私が〈ちょうだい〉と【ちょうだい】ジェスチャーを見せると、真似してくれました。そこで私は再びおもちゃを渡します。

 私がまたおもちゃを用意しようとするとA君がのぞき込み、手を伸ばします。制止して〈ちょ〉と最初の音だけ伝えるとA君はぱっと反応して【ちょうだい】ジェスチャーをしてくれました。

2. 絵カードを使ったコミュニケーション

 マカトン・サインはシンプルな反面、複雑な要求や具体的に欲しいものを伝える時に限界があります。また人に興味を持たず、動作の真似がなかなか出来ないお子さんには少し難しいかもしれません。視覚的に捉えることが上手なお子さんには絵カードコミュニケーション(PECS)を使うこともあります。

 B君は自閉症スペクトラムの診断を受けた3歳の男の子です。B君の要求はすべて親御様や先生の腕をつかんで、欲しいもののところへ運ぶ「クレーン」と呼ばれる動きに集約されていました。そして要求がうまく伝わらないと要求が満たされるまで癇癪を起こし続けるのです。これはなかなか大変です。ただB君は視覚的に物を捉えることが得意で、教えていないのに平仮名や数字を書けるようになっていました。

 そこでB君には視覚的に分かりやすい絵カードコミュニケーション(PECS)の練習をすることにしました。まずは欲しいものの絵カードを私に渡す練習です。この練習の時には私と補助の先生2人で行ないました。B君には大好きなお菓子があるのでそれを写真に撮りカードを作って用意しておきました。そして私はB君の対面に座り、補助の先生はB君の背後に座って準備OKです。

 早速私はB君にお菓子を見せました。B君は即座に手を伸ばしますが補助の先生がその手を取り、お菓子の絵カードを持たせます。B君は初めてのことに癇癪を起しかけますが、補助の先生がお菓子カードを持ったB君の手を私に差し出し、すぐに私は〈お菓子、どうぞ〉とお菓子(B君がお腹いっぱいになると練習が続けられないので小さく砕いたもの)を渡します。

 B君はお菓子を食べて満足そうです。私は再度お菓子を見せます。そして同じように練習を重ね、お菓子に直接手を伸ばすのではなく絵カードを渡すと要求が満たされることを学んだB君は自分から絵カードを取って渡してくれました。

3. まとめ

 上記のような練習によって訳が分からない状態から少しでもコミュニケーションが取れたと実感できると、親御様も気持ちが楽になると思います。「この子の言いたいことが全然わからない」と悩む親御様は、専門家という「通訳」を介して子供を理解することからはじめてもいいと思いますよ。ひとりで抱え込まずに専門家を頼ってくださいね。

[参考記事]
「療育の事例④ソーシャルスキルトレーニング。「貸して」が言えないA君」

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