Read Article

広告

学習障害により時計が読めない、掛け算九九ができなかった子供時代

この記事は20代の女性に、学習障害の体験を書いていただきました。

………

広告

●どうしてもわからない掛け算 私だけ何故?

 私が一番初めに違和感を抱いたのは、小学校二年生の掛け算九九の授業の時でした。掛け算九九を暗記して、先生の前で暗唱する。その日の課題の段が全部言えた人から休み時間に入っていい。よくあるその授業で、私は全く課題をクリアすることが出来ませんでした。

 算数の授業の後は決まって、私は休み時間の間中、掛け算九九表に向き合って座っている日が続きました。いくら時間をかけて眺めていても、掛け算九九は覚えられませんでした。二か月ほどそんな毎日を過ごし、結局私が覚えられたのは一の段と二の段だけでした。掛け算の取り組みが終わった時、心の底から安堵したのを十年以上経った今でも覚えています。

●私にとって、どうして掛け算が難しかったのか

 あの時の私にとって、掛け算九九を覚えるという事がなぜそれほど難しかったのか。大人になった今、説明をしてみようと思います。

 大人からしてみれば、『掛け算九九を先生の前で言う』というのはとても簡単な事の様に思えます。何故かと言うと、法則があって並んでいる数字の列だからです。4×4が分からなければ、4×3の答えに4を足せばいい。もしくは、4×5の答えから4引けばいい。それでもわからなければ、4×2の答えを二回足せばいい。4+4+4+4をしても答えが導けます。たとえ記憶の中に無かったとしても、4×4の答えを導き出す方法はいくらでもあります。

 しかし、あの時の私の目には、掛け算はもっと異質なものに映っていました。私の中で、掛け算九九は『意味のないひらがなの大群』としてしか認識できなかったのです。

 「にいちがにににんがしにさんがろくにしがはちにごじゅうにろくじゅうに……」

 そこに、なんのヒントもありません。無造作に並ぶひらがなの列であり、なんの手掛かりのない音の集まりでした。周りの友達が、「5の段は簡単だよね」「7の段は苦手なの」という会話をしているのも、私にとっては意味が分かりませんでした。

 ようやく終わった掛け算の次に私の前に大きな壁として立ちはだかったのは、『時計』の授業です。時計を読むだけなら、すぐにできました。しかし、「2時40分の25分後は?」などの、時間の経過の問題は全く分からなかったのです。掛け算以降の単元は、すべて全く分からない何かが存在し、幼い私には、自分が何を理解できていないのかもわからず、そのたびに頭を抱えることになりました。

●学習障害と向き合い生活する

 実は私は、学習障害(LD)の一種『算数障害(ディスカリキュア)』に当てはまる児童だったのです。当時、現在の様に学習障害の存在は認知されておらず、算数以外の教科は十分にできていた事もあり、特に特別な配慮はなされないまま『算数が苦手な子』として学生生活を過ごすことになりました。

 学生時代は散々だった算数ですが、自分なりに理解できるコツを発見すると、日常生活の中で登場する程度の算数であれば問題なく身に着けることができました。

 掛け算であれば、『2×3=6』を理解したいときは、お皿を持った猫を三匹描き、そのお皿に二枚ずつクッキーを載せます。不思議と、一度それをすることで式の仕組みが理解でき、あれだけ苦手だった掛け算をすんなり覚えることが出来たのです。

 時計のつまずきは、時間を針の動く幅で覚えました。25分はこの位の大きさ、15分はこの位。その様な幼いころの自分が、一生懸命考えて自分のために決めたコツが、私の中には無数にあります。そのため、私は大人になってからは特別に数字でミスをしてしまう事はありません。自分が算数障害であったことを誰にも悟られずに社会人生活を送ることができています。

●「時計がまったく読めない」学習障害の児童の悩み 

 現在私は、発達障害の児童が利用する放課後等デイサービスの職員として働いています。ある日、私の施設に通所している児童から「時計の読み方を教えてほしい」と相談され、詳しく聞いてみると、『時計が読めないために休み時間の終了時刻が分からず、授業開始に気が付けないことがあり、先生に怒られてしまう』という内容でした。

 何故その子は時計が読めないのか。何が理解できていないのか、児童に聞き取りをしながら一緒に考えているうちに、つらい気持ちになりました。時計なんてデジタル時計で良いのです。今なら時刻を音声で読み上げてくれるアプリだってあります。タイマーを持ち歩いたっていいのです。

 誰かが作った装置でしかないアナログ時計なんて、一生読めなくても困りません。そのことを、一人で悩んでいたこの子に、何故誰も教えてあげなかったのでしょうか。周りの大人が気付かない中で、たった一人で悩んでいたのです。

 その後、すぐに児童の母親に許可を取り、小学校に電話をかけ、担任の先生と話をする機会が持てました。先生は、「時計やアプリの利用は、ほかの児童に影響があるから……」と難色を示しましたが、「キッチンタイマーなら良いですよ」と許可をいただけました。次の日から、その児童は休み時間にキッチンタイマーをポケットに入れて過ごすようになり、怒られるかも……という恐怖から解放されて休み時間を楽しめるようになったのです。

 後日、その子は百円ショップで買ったという小さなキッチンタイマーを、大切そうに私に見せてくれました。「数が減っていくから、僕にもわかるよ。五分あれば、トイレに行っても間に合うんだ」そういって、その子はニコニコと休み時間に何をして遊んだか、私に聞かせてくれたのです。

 たった百円で、子供の悩みが一つ消えるのです。特別な道具や、たくさんのお金は必要ありません。一緒にその児童の特性に合わせたやり方を考えてくれる人がいれば、子供が抱える困り感を無くすことができます。自分の特性に困っている児童がもっとも必要としているのは、自分にあった方法を一緒に探して見つけてくれる大人の存在なのではないでしょうか。

[参考記事]
「私はLD(学習障害)により算数ができません。その対処法をお伝えします」

URL :
TRACKBACK URL :

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top