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療育の事例①気持ち(感情)をコントロールする練習

この記事は療育の指導員の方に書いていただきました。

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1.はじめに

 私は現在、療育施設にて児童指導員として勤務しております。発達障害を持つお子さんの中には気持ち(感情)のコントロールが難しく、お友達とトラブルになってしまうことが多く見られます。

 今回は事例を通して、なぜこのようなトラブルが起きるのか、療育ではどのような対応をしているのかお話していきます。なお、ご紹介する事例は個人が特定されないよう、複数のお子さんの事例を合わせて構成した事例です。これらの事例ではいかにして気持ち(感情)をコントロールすることができたのかをお伝えします。

2.「1番じゃないと許せない」Aちゃんの事例

 年長さんのAちゃんは知的なレベルが他の子どもよりも1年以上上回っている賢くて可愛らしい女の子。お姫様が大好きで自分もお姫様になりたいと憧れを抱いています。

 しかしAちゃんは1番でないと嫌、負けることが絶対に許せない、という特性からお友達と仲良く遊ぶことが難しく、療育に通っています。

 Aちゃんの1番へのこだわりは本当に強く、勝負事だけでなく、プリントを渡す順番、集団での療育が終わった後、外に出る順番など何から何まで1番でないと気にいらず泣き出してしまう程でした。

 療育ではまずAちゃんの知的に優れている面をしっかり生かしていくために紙芝居でお話をすることにしました。

 そこで用いたのが「白雪姫」です。「白雪姫」は皆さん知っての通り、自分が1番美しいと自負するお妃様が、美しい白雪姫を殺そうとたくらむお話です。このお話を読みながら、Aちゃんに「1番になりたいからって白雪姫に意地悪なことするのっていいのかな?」なと質問を投げ掛けると、頭の良いAちゃんは「だめ」と答えることが出来ました。

 「そうだね。1番じゃなくても白雪姫みたいに優しい方が大切だね」と伝えるとAちゃんも「私もお姫様になりたいから白雪姫みたいに優しくする」と張り切っていました。

 またこのお話で得た知識を実際の生活にも生かすために「白雪姫になろう!カード」を作成しました。これは1番じゃなくても我慢できた時にポイントが貯まるカードで5ポイント貯まるとお姫様みたいな可愛いアクセサリーを買ってもらえるカードです(このようなポイント制度をトークンエコノミーといいます)。カード自体もピンク色で可愛いイラストをつけ、シールもAちゃんの好きなお姫様などのシールを用意しました。

 最初は「白雪姫」のお話の後でも1番でないと泣いてしまうことはあったのですが、泣き止んだタイミングで〈上手に落ち着けたね!じゃあシール貼ろう〉とシールを貼ってもらいました。それを繰り返すうち、1番でないと涙ぐむことはあるものの、「私、お姫様になるから我慢するの」と自分から気持ちを切り替えようとがんばれるようになりました。

 そしてポイントが貯まって買ってもらったアクセサリーをつけて「私、頑張ったから今日はお姫様なの」と嬉しそうに報告してくれました。

3.気持ちと身体が直結しているB君の事例

 B君は年中さんの男の子。友達と遊ぶことがとても大好きなのですが、気持ちが興奮すると思わずお友達を叩いてトラブルになることが多いので、療育に通っています。

 叩いてしまう行動は、怒った時だけでなく嬉しくなった時にも現れるため、B君本人は嬉しさを表現したいだけなのに友達には嫌がられるといった状態になっていました。

 まずB君の身体の使い方をチェックしてみました。すると、B君は力をコントロールすることが苦手で、おもちゃの片付けも投げるように放り込み、消しゴムではプリントを破くまで力いっぱいこすってしまう様子が見られました。

 そのためまずは力のコントロールを練習するために色々な運動を行ないました。まずは全力を出して身体を操作する綱引きで先生と対決!動くことが大好きなB君は楽しみながら全力を出した時の自分の身体の感覚を確かめてもらいました。

 その上で、今度は「優しい力」の練習です。まずは、的を狙ってボールを投げる遊びに取り組みました。B君は基本的に全力しか出せないのでボールは的を大きく越えてしまいました。

 今の力では当たらないことが分かったB君は次第に力を弱めに調整して投げることが出来るようになってきました。

 また手押し相撲遊びでも全力で押すだけでは相手を倒せないことを学び、力を弱めたり、手を引っ込めたりといった駆け引きが出来るようになりました。

 そのように自分の身体を上手に使えるようになるにつれ、興奮した時にも衝動的に友達を叩くことが減りました。

 また「気持ちの風船」という、「しょんぼり」「ふつう」「ばくはつしそう(興奮)」の3つの気持ちの状態をイラストで視覚的に見えるようにしました。B君に気持ちを選んでもらうことを繰り返すうちに、「もうすぐばくはつしそうだから休みたい!」と気持ちを抑えることができるようになりました。

4.気持ちをコントロールする意味

 ここでは気持ち(感情)のコントロールの練習風景を紹介しましたが、発達障害を持つ、持たないに限らず誰でも気持ちが昂ったり、落ち込んだりすることはありますよね。それを全てコントロールしろ、というのは不可能です。

 ただ、自分の気持ちに不本意な形で振り回されずに、本人が楽しく生活できる助けになればと思い、私はお手伝いしています。この記事が少しでもお子さん、そして親御様の助けになりますよう願っています。

[参考記事]
「リトミックという療育は障害を持つ子供の得意分野を伸ばす」

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