この記事は自閉症の女の子を育てている30代の女性に書いていただきました。
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三歳頃までは、娘を育てていて「しんどい」と思ったことはありませんでした。寝返りもハイハイも、歩き出したのも平均程度。言葉の出始めも、わりと早かったように記憶しています。夜泣きがあり、人見知りが激しいなとは思っていましたが、この年頃の子供にはありがちなことだと思っていました。
二歳年上の兄が発達障害を疑われていたこともあり、自閉症に関してはそれなりの知識を持っているつもりでした。自閉症の子供のサインとして一般的によく挙げられるのは、「クレーン現象」「目が合わない」といった事柄です。大人の手を取り、欲しいものへとクレーンのように誘導したり(クレーン現象)、他人との関わりを恐れる(目が合わない)といった行動をとってしまうのです。
娘は、この二つのどれにも該当しませんでした。物を取って欲しい時は指さしをしましたし、目を合わせてキャッキャとよく笑っていました。だからまさか娘が自閉症だとは、これっぽっちも考えていませんでした。
■異変を感じたのは、幼稚園に入ってから
そんな娘の子育てに不安を感じるようになったのは、幼稚園に入ってからでした。初めのうちは、特に気にしていませんでした。通園バスに乗る時にギャン泣きするのはうちの子だけではありませんでしたし、お遊戯中にふらふらと歩き回っている子も他にもいました。
年少さんのことですから、トイレトレーニングがまだ完了していない子がちらほらいる中で、きちんと自分で用を足せる娘に安心もしていました。ですがトイレに行ける能力があるのに、どうしても幼稚園のトイレに行きたがらない日々が続きました。それでもまだ幼いですし、奇妙な「こだわり」もすぐに消えるだろうと深くは考えずに様子を見ていました。
半年もすれば、しっちゃかめっちゃかだった年少さんたちも徐々に集団の規律を習得し、落ち着いてきます。それなのにうちの娘は相変わらず通園の度にギャン泣き、お遊戯中は廊下を笑いながら走り回っている、トイレは一向に行こうとせず一日中我慢、といった具合でした。
周りの子が見違えるほど落ち着いていく中、そんな娘の様子に焦りを感じ始めたのを覚えています。その頃から、娘の突出した行動が目立つようになってきます。参観日では、先生の言うことを聞かずに一人で違うことをしていたり、お歌を歌っている最中に後ろの棚によじ登っていたり。
「言うこと聞かなくて、困ってるの」
「うちもそうよ~。徐々に落ち着いてくるわよ」
そんなやり取りを苦笑いしながらママ友と話していても、焦りが暗雲のように胸の内に広がっていきました。こだわりが強く、一人遊びが多くなる…。これは自閉症スペクトラムの特徴でもあるので、「もしかして」という思いがもくもくと沸き起こってきました。
■女の子の自閉症児は気づかれにくい
年中さんになると、娘の異常行動はますます顕著になります。運動会の徒競走ではゴールではない方向に走って行ってしまう、ダンスでは一人違う踊り方をしている、劇発表の時にはじっと出来ず突然ゴロゴロと舞台を転がり始めるといった感じです。
「この子は他の子とはどこか違う」と、その頃には私も自覚していました。インターネットで発達障害についてを調べる回数も、多くなっていました。ですが前述した通り、娘はクレーン現象はありませんし、人と目も合いますが、こだわりが強く、一人遊びが多くなるという性質があります。
家庭で過ごす分には本当にいい子で、お手伝いはすすんでよくするし、着替えや歯磨きなども促さなくとも一人でやっていました。二歳年上の兄よりも、しっかりしているくらいでした。問題は、集団に身を投じた時だけなのです。「きっと内向的なだけ。小学校に入る頃には問題なくなる」との周りの声を信じて、時が過ぎるのを待つばかりでした。
あとになって知ったことですが、一般的に女の子は男の子よりも発達が早くしっかりしています。それゆえに親は娘の症状を見過ごしやすく、自閉症の診断が遅れてしまうことが多々あるそうです。うちの場合も、まさにそれでした。
■きっかけは言葉のクレーン現象
年長になれば、年少の頃とは比べものにならないほどに皆しっかりとしてきます。ですが娘は、何ら変わりはありませんでした。そしてその頃には、言葉の遅れも目立つようになっていました。会話が噛み合わずオウム返しばかりで、日々機械のように同じことばかり問いかけてきます。私の言葉数が少ないせいで娘はこうなってしまったのだろうと、悩んでばかりでした。
「この子は発達が遅いだけ。自閉症ではない」
母親である私は、相変わらずそんな固定観念のもとに日々を過ごしていました。行き場のないモヤモヤとした気持ちが常に胸の内にあって、意味もなく涙が溢れる毎日が続きました。娘が他の子と違うのは自分の育て方のせいだと責め立て、後悔してばかりでした。
変化が訪れたのは、娘が年長になり半年が過ぎた頃でした。「〇〇と言ってよ」と日に何十回もせがむ娘に異常を感じ、ふとインターネットで検索したのがきっかけです。
出てきた検索結果は、「言葉のクレーン現象」というものでした。クレーン現象は大人の手を物のように扱って誘導することだけではなく、言葉でもあり得るのだということを初めて知りました。自分の言いたい事柄を、他人の声で代弁してもらうことで安心感を得るのです。自閉症児特有の行動とのことでした。その瞬間に、ふっと肩の荷が降りたのを覚えています。
「ああそうか、娘は自閉症なんだ」
やっと、答えに辿り着けたような気持ちでした。胸を覆っていた暗雲が、すうっと溶けていく感覚を鮮明に覚えています。ショックではありませんでした。
数日後には専門医を受診し、検査を受けました。結果は「軽度の知的障害を伴う自閉症」とのことでした。娘が他の子と違う原因が明らかになり、これでようやく未来に向けて動き出せると、嬉し涙が出ました。今にして思えば、そこまで私は自分を追い込んでいたのだと思います。
自閉症のサインはさまざまです。本やインターネットにはさまざまな要チェック項目が記載されていますが、文章だけでは分かりにくいこともあります。早めの診断は、早めの療育に繋がりますので、確実に子供の未来によい結果を残します。
お子様の発達のことで日々悩まれているお母様がいらっしゃいましたら、私のこの体験をぜひ参考にしてください。きっと、あなたも未来に向けて歩き出せるはずです。
[参考記事]
「自閉症スペクトラムの特徴とは」
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