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発達障害を抱える子が「社会(科目)」を好きになる方法

この記事は発達障害のお子さんを育てている40代の女性に書いていただきました。
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「暗記は得意」と思いきや……

 私には、就学前にアスペルガー症候群と診断された子供がいます。現在は中学生です。

 発達障害の子はよく「暗記」が得意と言われます(自分の興味のある分野だけですが)。発達障害についてのテキストで、堅苦しく「カタログ的な知識の収集を好む」と表現されていたのを見たことがあります。

 私の息子も、幼稚園の頃から鉄道オタクで、「○○電鉄の△△系」がどうの、「JRの×の□系」がどうのとオタクな知識をひけらかす子供でした。母の私はそんなものに興味はないので辟易しながらも、「将来、暗記科目は楽勝かも」という期待をしてもいたのです。

 ところが、そう上手くはいきませんでした。小学校の社会科は可もなく不可もなくという成績でしたが、中学受験のために通っていた塾の成績が今一つです。

 最初は「地理」から学習を始めるのですが……。母の私としては、「あれだけ鉄道オタクなのだから、少なくとも電車から駅、駅から都道府県名や地名、そして地理全般にスムーズに勉強が進むだろう」と思っていたのに、テストに出るような項目はあまり頭に入らないようなのです。

 結局は、塾のテキストに合わせて、興味を持たせる工夫を凝らすことになりました。学習塾の社会科の先生には、全体の保護者会で「とにかく興味を持たせてください」と力説されました。

 発達障害がなくても、興味のない物事をただただ暗記するのは苦痛なものです。「勉強が嫌いにならないように」そして「効率よく受験勉強をこなせるように」学習塾の先生も「生活の中で興味を持たせる工夫をお願いします」とおっしゃるのです。

 ちなみに、最近、「日本史の暗記が嫌いな受験生の言い分」を見て、笑いながら妙に納得してしまいました。西原理恵子さんの育児マンガ「毎日かあさん」によると、大学受験を控えた息子さんが日本史だけ成績が悪いのだそうです。

 お母さんとしては「日本史なんて暗記すりゃ済むだろう!」と怒るのですが、息子さん曰く「あのさあ、全く知らねえ死んだおっさんが数百人オレ自慢名刺もって並んでんだよ。あんなウザイ死人どやって覚えんだよっ」。なるほど!「興味ないおっさんのオレ自慢」、そりゃウザいことでしょう。

「社会」に興味を持たせる工夫

 私自身が子供の頃は、漫画一般が禁止され、学習漫画だけ購入してもらえました。歴史漫画をむさぼるように読んで、今でも内容を覚えているほどです。

 ところが、今の子供は、もっと楽しいことが身近にあるのです。学童保育の本棚に「歴史漫画」もあったのですが、同じ棚に「ドラえもん」もあり、当然、息子は「ドラえもん」の方に食いついていました。

 また、これは私の不注意ですが、「低学年の子供は読まないだろう」と、当時私が読んでいた漫画をリビングにおいて置いたままにしていたところ、子供がハマってしまったことがあります。

 それは荒川弘さんの「鋼の錬金術師」です。内容は素晴らしいのですが、残虐なシーンが多いので当面は倉庫に隠すようにしました。その代わり、同じ荒川さんの「銀の匙」(農業高校を舞台にした青春もの)は親子で一緒に読み、おかげで理科には興味を持つようになったのですが……。

 エンタメ系の漫画を先に読んでしまうと、普通の学習漫画はやはり「地味」「お勉強職が強い」「つまらない」と感じるようで、あまり読まなくなってしまいました。普通の漫画に触れさせる前に、歴史漫画だけを家において置いたら良かったな……と少し後悔しています。

 ただ、歴史漫画の出版社も、似たような事例が多いのか、エンタメの世界で評価の高い漫画家に依頼することもあるようです。また、エンタメ系でも、歴史を題材にしたものはあり、定評のあるものは読ませてもいいかもしれません。

 我が家は、母の趣味で森薫さんの「エマ」(英国の産業革命の頃が舞台)「乙嫁語り」(19世紀の中央アジアが舞台)なんかを読んでおりました。

 男親主導で、少年漫画から適切なラインナップが見つかれば、父子でそれを楽しむといいかもしれません。

史跡だけでなく、体験を通じてより身近に

 史跡巡りにもせっせと連れ出しました。ただ、古戦場など、跡地に石碑が立っているだけのような史跡にはあまり食いつきませんでした。確かに子供にはつまらないでしょう。

 その合戦の経緯も、その時代の合戦についての映像的な情報も何もないのに、「○○で有名な場所だよ」とただの野原を指して言われても、さっぱりイメージがわかないようです。

 一方で、博物館の中の「合戦のジオラマ」や、昔の「平城京」「平安京」などの復元模型などは、興味を持てたようでした。小さい頃から、プラレールやNゲージのジオラマ模型を眺めるのが好きだったので、その延長で模型が好きなのかもしれません。

 近年の博物館は、ただ展示を並べるだけではなく、来館者が楽しく興味を持つよう工夫を凝らしてくださっています。

 歴史的な遺物は当時の装飾がはげ落ちて地味なものですが、その横に、当時のキンキラキンな様子を再現して、子供の目を引く展示も添えられるようになっています。ある考古館では「銅鐸」のレプリカが置いてあり、来館者が楽器として叩けるようにもなっていました。

 また、当時の衣装を着せてもらえるというイベントもあります。時代衣装で記念写真を撮影し、本人にとっても楽しい「コスプレ」経験となりました。

 週末のお出かけなどで、家族一緒に楽しむと印象に残り、自然と興味がわくのではないかと思います。

国会議事堂と新聞

 こうして「歴史」に興味を持たせるコツを掴んだ……と思った頃に、息子の受験勉強は「公民」分野に入りました。地理や歴史と違って抽象的な領域ですので、どうしたものか、ちょっと困惑しました。ただ、たまたま近現代史と重なるところがあるので、国会議事堂を見学に行ったところ、そこで興味をもったようです。

 国会議事堂は、1時間に1度、内部を見学させてくださいます。本会議場も観覧席から見ることができます。発達障害の子供はテレビ好きが多いと思いますが、テレビで見るものの実物を見ると、とても強く印象に残るようです。「NHK7時のニュース」などで国会が映し出されると、「わあ!僕が見たのと同じ!」と食いつくようになりました。

 あと、この頃には小学6年生となり、小学生新聞を購読しました。「ママ、僕、TPPには賛成できないな」などと生意気なことを言ってみたり、「〇〇事件って、何が問題なの?」と時事問題の解説を親に尋ねてきたりするようになりました。池上彰さんが解説するテレビ番組なども、「ふんふん」と訳知り顔でうなずきながら見ておりました。

教科の「社会」と日常生活用語の「社会」

 教科名としての「社会」と、日常生活で「あの人は社会性がある」「社会でうまくやっていく」と使う「社会」とは、同じ「社会」という言葉でも、指し示す内容がちょっと違うと普段考えがちです。

 教科としての「社会」は、地名や人物・制度の暗記的な知識だと思われがちです。しかし、暗記の手前で関心を持てば、それらの背後に、その土地の、その人物の、その制度を産み出すにあたっての「物語」があることに気づくようになるでしょう。大人になって「社会」に出た時に、いろいろな土地から来た人との出会いに対応しやすくなるのではないかと思います。

 つまり教科としての「社会」に興味を持つということは、最終的には、自分以外の「他人」のバックグラウンドに興味を持てるということになると思います。この「他人への興味」こそ、発達障害児にとっての大きな課題ですから。

 受験では「社会」は軽視されがちです。中学受験では、受験科目に社会が無いか、あっても配点が低いかすることが多いです。大学受験でも「暗記すれば済む科目」扱いです。

 しかしながら、その後の長い「社会」生活を考えると、いろいろな地域や産業、歴史に幅広い関心を持ち、出会う他人のバックグラウンドに想像力を持つことは非常に重要だと思います。

 現在の息子は教科としての「社会」は好きですし、その背後についても興味を持つようになりました。この良いところは伸ばしつつ、今後の社会科学習が「知識のための知識」にならないよう、親として機会を見つけて話をしていきたいと思います。

[参考記事]
「発達障害を抱える子が「理科」を好きになる方法」

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