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発達障害を抱える子が「理科」を好きになる方法

この記事は発達障害のお子さんを育てている40代の女性に書いていただきました。
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「発達障害?でも、天才が多いんでしょ?」

 私には就学前にアスペルガー症候群と診断された息子がいます。発達障害、特にアスペルガー症候群には、「理系の天才が多い」というイメージを持つ人が多いように感じます。

 確かに、アインシュタインとかエジソンとか、理系で素晴らしい業績を残した人が今でいう発達障害(アスペルガー症候群)であった可能性は高いようです。

 私の息子に診断を下した専門医も、療育先の先生も、就学後の学校の先生も「将来、きっと勉強ができるお子さんに育ちますよ」と慰めてくださいましたが……。

 残念ながら、私の息子はそのような「天才」ではないようです。また、私は地域の「親の会」に入っていますが、特に学業が優秀だというお子さんはあまり多くはないように思います(そういうご家庭は愚痴をこぼしに「親の会」に参加していないという可能性はあります)。

 「理系の天才に違いない」という極端な思い込みでなくても、アスペルガー症候群と言えば「何か特定のものに強みがある」と言われますが、私の息子には当てはまらないし、「親の会」でもあまり聞きません。

 逆に、「テレビ」や「ゲーム」など、勉強と関係のないものにのめりこんでしまった事例はときどき聞きます(これは過集中といって、発達障害者に多い)。「放っておくと何かにハマりやすい」傾向はありますが、それが望ましいものとは限らないというのが普通の発達障害児だと思います。

 ですから、出来るだけ、望ましくないものには接触させず、望ましいものに興味を誘導する必要があるのではないかと思います。

就学後の学業へのすり合わせ

 私の息子がハマったものは「乗り物」でした。赤ちゃんから大きくなっても発語が遅く、1歳半を2,3カ月過ぎてようやく発した言葉が、道端に停車していたタクシーを指さして「ブー」でした。

 トミカのミニカーやプラレールを集め、乗り物図鑑を飽きることなく眺めていました。親や祖父母から計5冊の「乗り物図鑑」をプレゼントされ、それらはボロボロになるほど読み返すのですが、私が「いくら何でも興味が偏りすぎでは?」と思って購入した「植物図鑑」「動物図鑑」などは、ほぼ新品の状態が続きました。

 小学校に入ってしばらくは勉強らしい勉強をしないのですが(2年生までは「理科」「社会」ではなく「生活科」という教科です)、3年生になって「理科」が始まっても、身近な動植物に全く興味のない息子は、当然学校のプリントもきちんとこなせませんでした。

 学校で習った当初は多少記憶があるらしいのですが、いかんせん興味がないので何か月か経つとすっかり忘れてしまうのです。例えば、4月に習った「身近な野の花」なんか、7月の夏休みの宿題の頃には全く記憶に残っていません。

 「どうにかしなければ」と焦りましたが、興味もないものを無理強いして「理科嫌い」にするのが一番よくありません。とにもかくにも「興味を持たせる」ということに悪戦苦闘することになりました。

「理科」に興味を持たせる工夫

 発達障害のないお子さんでも同じだと思いますが、やはり実体験を持たせることが大事です。

 かといって、理科の教科書がきれいに再現された場面に出くわすことは、実はあまりありません。「秋の七草」を見せたくても、平安時代の貴族の邸宅ならともかく、「フジバカマ」が現代日本の庭先に生えていることはないのです。結局、植物園に行くのが一番効率的でした。その他、各地の「博物館」「科学館」にお出かけしました。

 子どもだけが楽しむのではでなく、親も一緒に楽しむことも大事だと思います。そういうと難しく聞こえるかもしれませんが、最近の「博物館」や「科学館」って、大人が同伴しても楽しいものになっていると思います。

 昔の「博物館」「科学館」は、ただ展示物が並んでいるだけでしたが、最近は、子供に興味を持たせるような展示や解説、体験学習が充実しています。

 その分野に「愛」を持ったボランティア解説員の熱意ある説明で、「面白かった!」「楽しかった!」という思い出を作りやすくなっています。

 親の私も、初めてカブトムシを触ることができて、子供と一緒に大興奮。それで息子も少し昆虫が身近になったようです。

マンガの力は大きいです。

 まだ息子が低学年の頃、「こんなの子供は読まないだろう」と親の私が自分の息抜き用に読んでいた漫画を出しっぱなしにしていたところ、息子が読んでいたことがあります。

 荒川弘さんの大ヒット漫画「鋼の錬金術師」です。これは残虐なシーンも多いので(内容は素晴らしいのですが)倉庫に移しましたが、同じ荒川さんの「銀の匙」は息子と一緒に読むようにしました。

 荒川さんは北海道の酪農家の生まれで、「銀の匙」はご自身の農業高校での経験を活かした作品です。これにハマった息子は、将来の夢を「電車の運転手」から「農民」に変えたほどでした。そこで、ベランダ菜園でいろいろな植物を育てることにしました。

 近年、ホームセンターに行くと、野菜の栽培キットが売られています。植木鉢すら必要なく、そのキットに用意されている袋(排水できるようになっています)、土、肥料、種だけでできます。農民志願者となった息子が、毎日せっせと水やりに励み、大根を1本収穫できました。料理も手伝わせましたので、とても印象に残った経験だったようです。

 また、動物園に行っても「牛」「羊」など、酪農漫画に出てくる家畜には関心を持つようになりました。

 夫の実家にあった佐々木倫子さんの「動物のお医者さん」にも興味を示しました。同じ作者の「おたんこナース」を読めば、人体の仕組みや医学に興味を持つのかもしれません。

 ただ、これらのエンターテイメントの世界で名作の域に達した漫画を、「先に」読んでしまった弊害はあります。普通の学習漫画(「学研のひみつシリーズ」など)に食いつきが悪くなってしまいました。エンタメに徹した作品に比べると、お勉強色が強くて優等生的でつまらなく感じてしまうのでしょう。これから小学生のお子さんを育てるご家庭では、順番に気を付けられた方が良いかもしれません。

ガジェットをきっかけにする。

 トミカやプラレールなどの「子供のおもちゃ」を卒業するようになったころ、息子が関心を示すようになった中に、天体望遠鏡や顕微鏡などがありました。

 父親が理系人間で息子がこのような理系の器具に興味を持ったことが嬉しかったことで、息子は難なくこれらの器具をおもちゃ代わりに手に入れるようになりました。

 そのうち、4年生を過ぎるころから中学受験を考えるようになりました。学習塾で「理科実験教室」を開催してくれるので、積極的に参加させました。

 塾も心得たもので、わざわざ子供サイズの「白衣」を用意して「科学者気分」を盛り上げてくれます(「てんびん」とか全く白衣が必要ない内容の時でも)。鶏を丸ごと一羽解体するという回もあり、これは家庭で出来るものではなく、貴重な体験となりました。

 しかしながら、だからと言って受験科目として理科の得点が高いわけではなく……。特に溶解度の計算が苦手で模試でも壊滅的でした。そこで、その年の学校の夏休みの自由研究はビーカーなどを家庭でそろえて「溶解度」を調べることにしました。

 ビーカーやフラスコ、アルコールランプって、Amazonで普通に手に入るんですよ。文系人間の母と小学生の息子とでは、実験そのものはあまり上手く行かなかったのですが、「実験器具」というガジェットを、家でそろえて「科学者気分」が味わえたのは良かったと思います。

理科が「好き」なら安心なこと。

 いろいろ工夫しても、特に息子の理科の学力が高くなったわけではありません。しかし、本人の自己認識では「自分は理科が好きな男の子」と思っているようです(あの偏差値でどうしてそう思えるのか不思議ですが、もちろん親からは何も言いません)。

 一口に「理科」とくくっても、領域は様々です。植物・動物・天体の動き・「てこ」や「天秤」・地層や地震などなど……。息子の場合は、計算が絡むものは誤答が多いのですが(注意力が不足しているので、きちんとこなせない)、暗記でどうにかなるものは比較的点数が取れました。自分のなかで「得意」と思うと興味もわくようです。

 「興味」さえあれば、自分であれこれ調べるのが発達障害児の長所だと思います。「好き」でさえいてくれれば、この先の長い人生のどこかで帳尻が合うのではないかと思っています。

 また、一つでも好きな教科があるのとないのとでは、学校教育になじむかどうかも大きく違ってくると思います。学校は勉強するところですから、やはりどの教科も面白くないとなると通うのが辛くなってしまうでしょう。「好き」と思える科目があれば、不登校のリスクも下げられるのではないでしょうか。

 その点、「理科」は、家庭の工夫や、科学館・博物館の催し、学習塾の実験教室などの助けを借りることで、子供に興味を持たせやすいものではないかと思います。

 細かい成績には目をつむって、「好き」という気持ちをこれからも育んでいきたいです。

[参考記事]
「発達障害を抱える子が「社会(科目)」を好きになる方法」

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