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精神障害者保健福祉手帳を取得したことでの差別と返納の経緯

 

この記事は前田穂花さんに書いていただきました。精神障害者保健福祉手帳を取得した方法や取得した後の差別などについて書いていただきました。

…………

 はじめまして。身体障害と発達障害(高機能自閉症)、そして軽度知的障害を併せ持つ、車椅子ユーザーのプロ女流官能小説家、そしてライターの前田穂花です。

 五十歳を目前に控えた現在は、車椅子専用の都営住宅に単身入居が認められ、時々壁にぶち当たりながらも、複数の原稿依頼を受注し、自身の原稿料で生計を立てつつ、完全自立の日常を実現させています。

 稿料で賄えない部分については、障害厚生年金(金額は1級の障害基礎年金と同等)及び、共済障害年金(元公務員だったため)1級、ほか重複障害者に支給される特別障害者手当及び東京都独自の心身障害者福祉手当によって補填しています。

 最重度の障害こそ負ってはいますが、現時点ではどうにかヘルパーさん等の介入も必要とせず、マイペースでパソコンのキーボードを叩きながら、幸い?毎日締め切りに追われ、私はそれなりに忙しくしています。

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発達障害者に交付されるのは「精神障害者保健福祉手帳」

 基本的に、発達障害者に交付される手帳は「精神障害者保健福祉手帳(通称:障害者手帳)」である場合が殆んどです。

 いっぽうで、自閉的傾向以上に知的な面での発達の遅れが顕著な場合には「療育手帳(東京都では“愛の手帳”)」が交付されています。

 最近注目され始めたADHDやLDのような場合、成人するまで発達障害だということが当事者本人にも周囲にも気付かれないことが多く、発達の歪みからくる社会的不利益や生きづらさによって二次障害を呈し、精神疾患様の病状で日常生活に制約を受けているようなケースに対して精神障害者保健福祉手帳が交付されています。

 発達障害者が精神の手帳を所持している実数についての正式な調査というのは今のところ行われていませんが、考えるうえでの参考になる一例を挙げます。

 平成28年度内閣府「障害者白書」によれば、全国の精神障害者保健福祉手帳所持者数はおよそ418,700名。一方、知的障害者に交付される「療育手帳」を所持する人数は559,800名となっています。

 しかしながら、手帳を有していなくとも「障害者更生医療(精神通院)」などの制度を申請、利用している人の数を含めれば、全国の精神障害者数は390万人を超えると見込まれています。

 この数には当然、統合失調症など従来からの精神障害者も含まれていますし、知的障害者が精神の手帳を併持している、てんかんなどの合併症で「障害者更生医療(精神通院)」も利用していると思われるなどのケースも当然あるので、単純に数字だけでは何とも言えないものがありますが。

 恐らく療育手帳よりも精神障害者保健福祉手帳のほうを有する(もしくは精神障害者として実際の制度を利用する)発達障害者が圧倒的多数だろうと想像させられる調査結果とはなっています。

精神障害者保健福祉手帳「最重度」を取得

 私自身がこれまで所持していなかった精神障害者保健福祉手帳を取得した理由は、身体障害の手帳と併せて精神障害者保健福祉手帳を有していれば、現在入居している車椅子専用都営住宅の住宅使用料(家賃)が大幅に減免されるからです。

 私は田中ビネーなどの知能検査、その他諸々の検査結果からIQ70程度の軽度知的障害だとの診断を受けていますが、この程度の障害の場合、家賃の減免対象に相当しない“4度”の愛の手帳(療育手帳B2相当)しか交付されません。そこで私は精神障害者保健福祉手帳を取得することにしたのです。

 一般的にはあまり知られていないのですが、精神障害者保健福祉手帳を簡単に取得する方法が存在します。実は精神障害者保健福祉手帳は他障害とは申請の方法、障害等級の判定方法が異なり「精神の障害を事由とした障害年金」を受給中であれば、自動的に年金の等級と同じ級の手帳が交付されるという(関係省庁内の内部)規定があるのです。医師による「手帳用の診断書」を提出する手間もなく、手続的にも役所の障害福祉課に年金証書を持参し、申請書を記載提出するだけの「お手軽」さです。

 別記事でも触れたいと思いますが、精神の障害を事由に1級の障害年金を受給中の私は市役所で簡単に申請可能で、しかも年金の等級判定に合わせて、手帳の等級も「最重度」の1級を取得出来る精神障害者保健福祉手帳を迷わず申請、取得しました。

精神の手帳を取得して知った社会の「差別」

 しかしながら、精神障害者保健福祉手帳を取得、所持した私が正直に感じる想いは

「手帳を取得したのと引き換えに社会的な信用を私は失った」というネガティブな感情。

 東京都の精神障害者保健福祉手帳は緑なのですが、私は緑色の手帳を取得後、「“精神の人”は怖い」と、そう言われてばかりです。「緑色の手帳を持ち歩いていると、何かいやな目で見られてしまうかも知れない」という漠然と私の心に渦巻く不安。

 例えば…バスに乗っていて、たまたまその日身体障害者手帳を忘れたことに気付いた私が「(都の精神の)緑色の手帳」を提示した時、

「(本来都内であれば運賃割引の対象になるにもかかわらず)それ、緑色だからダメなんだよね」と普通運賃の支払を求めたバス運転手。

 はじめて受診した医療機関で、精神の手帳も併せて所持していることを窓口で告げた上で、自身が高機能自閉症だと説明したところ、それまで私に普通に対応していた職員が一転「今日はお母さんはいないの?」と、まるで幼児を扱うように態度を急変させたこと。

 街でたまたまバッグから精神の手帳をポロリと落としたところ、その様子を見ていた通行人から「ただの車椅子の人だから手助けしてあげようと思ったけど、緑色の手帳を持ってるんじゃ…こっちが何されるかわかんない、怖いわよね」と聞こえよがしに言われた経験。

 これらは当然、障害者に対する認識として明らかに差別的であり、間違った見方です。

 緑色の「精神障害者保健福祉手帳」を所持する“精神障害者”に対する、社会のそれだけ強い差別や偏見を私に再認識させた体験のほんの一部です。こんな社会ですので、普段は身体の手帳だけを常時持ち歩き、何かの手続きで必要な場合以外、せっかく?取得した精神の手帳は専ら自宅の貴重品入れに寝かせたまんまでした(今は返納しています)。

 都内に転居してくる以前、私はごく普通に精神の手帳を身体障害者手帳と併持していました。

 しかし、東京都内の不動産屋“有志”(実際には都内の殆んどの不動産屋が参加する)が共同で謳う「東京都不動産ルール」のなかの一項に「精神障害者手帳所持者に対しては基本的に賃貸物件を斡旋しない。どうしても貸し出さねばならない場合には入居審査並びに保証人の選任を厳重にする」という内容が存在するらしいのです。

 都内の不動産屋においては、ルールとして共有される以前から「精神障害者には賃貸物件を貸さない」とする暗黙の認識(差別)のようなものが存在しているらしいです。

 緑色の手帳を持っている知人に、不動産屋の実態について聞いたところ「それでも単身生活を実現させたいから、アパートは親名義で借りている」という返答をもらったこともあります。

 とにかく、精神障害者保健福祉手帳を所持していることによって、私はひとり暮らしする部屋を借りるのに不都合だったがために、手帳を都に返納したといういきさつがあるのです。

 いうなれば、そのくらい精神の手帳を所持する人物への社会の偏見は根強いのだなあと心が痛い想いです。

現状こそメリットの少ない精神の手帳所持だけど

 東京都だけに関していえば。

 身体や知的の障害であれば「心身障害者(児)医療費助成制度(マル障)で全面的に保障される医療費の助成が、いっぽう精神障害者に対しては判定が最重度(=1級)であっても「障害者自立支援医療(精神通院)」以外の医療費に対する助成制度が存在しない。

 「都営交通無料パス」の制度運用が、都営の交通機関ならば何でも利用可能な他の障害のそれと異なる(しかも数年前まで、精神障害者に対してはパスの発行が有料であり、且つ利用範囲も都営バスのみに限定されていた)など、実際に精神の手帳を有していても、現実に受けられる助成や支援は殆んど存在しません。

 むしろ、精神障害者保健福祉手帳の所持は、障害当事者に対してプラスに働かないばかりか「緑色の手帳を持っている危険な奴」だと、そう周囲から受け止められ、差別に怯えてびくびく暮らさざるを得ないデメリットの方がずっと大きいという重い現実があるのです。つまり、精神の手帳の所持が「生活のしづらさを抱えている」事実の証明となり得る以上に、偏見の目に晒されるということです。

 ただ、精神の手帳を持っていることについてのメリットも当然あります。例えば。発達障害のせいで一般就労では周囲に適応困難、うつなどの二次障害を呈していた人が、障害者雇用の制度を活用し、理解ある事業所の配慮のもとに一般就労が叶ったなどのケースは、精神の手帳を取得したがゆえの利点だと捉えていいでしょう。

 もしかしたら…ひとりでも多くの人が精神の手帳を取得することによって、障害者に対する社会の受け止め方にも変化が生じ、私たち発達障害者にも今よりも明るい未来も待っているのかも知れません。その一歩をまずは私自身が踏み出したんだよね、と、誰かに緑色の精神障害者手帳をバカにされて私が泣きたくなってしまった日には、そう考えて心を落ち着かせるように努力していました。

[参考記事]
「アスペルガー症候群で精神障害者保険福祉手帳を取得し障害者枠で働く」

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